第11話
わたしは冬月時雨。 クラスメイトの北風響君、いやヒビキ君との不思議な関係が続いています。彼とお付き合いをさせてもらっているのですが、ちょっと普通じゃなくて。べ、別に変な意味ではないですよ。ただ、その、ちょっと……。
前にも言ったようにわたし男のコとお付き合いしたことがないんです。だから、その……どうお付き合いしたらいいのか分からなくて。ヒビキ君はとっても優しいし、わたしのことを大事にしてくれています。それは嬉しいのですが、何か物足りないような気がします。これってぜいたくな悩みでしょうか。
それともうひとつ。今もまだわたしたちの関係は誰も知りません。ヒビキ君がわたしに気を使ってくれているのですが、もうそろそろ周囲に公開してもいいと思うんです。クラスにはカップルがいくつも誕生しているし。ヒビキ君けっこうモテモテだから少し心配だし。
ヒビキ君と二人だけで会えるのは放課後だけ。しかも人目につかないような場所でこっそりと。まるでフリンしているみたいじゃないですか。もっと正々堂々とお付き合いをしたいんですけど。わたし冬月時雨のイメージなどどうでもいい話です。
「冬月さん、北風のことどう思う?」
峯雲深雪さんです。よくヒビキ君の事で探りを入れてくるんです。本当にカンがいいと思います。
「どうって……わたし北風君よく知らないし」
「そ、そうよね。アイツあの通りでしょ。冬月さんも気を付けてね」
「うんわかった。峯雲さんありがとう」
わたしすごい演技力でしょ。それにしても、気を付けろってどういうことかしら?
峯雲さんヒビキ君と何かあったの? こんど聞いてみよう。
ヒビキ君は教室では、わたしの事などまるで眼中にないように振る舞ってくれています。峯雲さん以外は誰もわたしとヒビキ君の関係を疑っていないと思います。それはそれでさびしいようなさびしくないような。
そう言えばもうすぐ中間テストでしたっけ。皆さん試験前になると大あわてで勉強 をはじめるみたいです。以前に読んだラブコメラノベでは皆で集まってわいわいがやがやと勉強会をしていましたっけ。結果がどうなったか忘れましたけど。
でもそんな付け焼き刃でいいんですかねえ。まあわたし優等生と思われているようですけど、あまり勉強しているわけではなくて。いつもテスト結果がいいのが不思議です。ヒビキ君は今回どうなんでしょうね。
「ヒビキ君、中間テストはどう? 自信ある?」
「アハハハ、あるワケないでしょ。特に数学と物理はヤバイかも」
「そ、それじゃあ一緒に勉強しましょうよ」
「そうだね。冬月さんとなら真面目にできるかも。出来の悪い生徒ですけどよろしく」
「ヒビキ君! からかわないで!」
という事でわたしとヒビキ君、二人でテスト対策をすることになったんです。場所は学校から少し離れた公立の図書館にしました。放課後いつものように別々に学校を出て、待ち合わせ場所で落ち合って……。
二人で図書館の入り口まで行きました。ところがそこでヒビキ君が立ち止まってかたまってしまったんです。周囲には誰もいないのに、まるで知り合いにでも出くわしたかのように……。
「ヒビキ君? どうしたの? 大丈夫?」
わたしは立ち尽くしているヒビキ君に声をかけました。
「あ、うん、ごめん冬月さん、ここはちょっと……場所を変えよう」
「えっ? ここまで来たのに? わたしはいいけど……」
「ホントにごめんね、ボクのわがままで。たしか向こうに公園があるからそっちに行ってみようよ」
こうしてわたしとヒビキ君は、図書館に入るのはやめて駐輪場を通り抜け公園に行きました。わたしはいまいち納得いかなかったんですが、公園に着くまでのあいだ普通に会話をしました。はたから見ると仲のいい恋人同士に見えるかしら。
図書館に隣接した公園は木々に囲まれて静かでした。わたしたちは片隅にあるベンチに並んで腰をおろしました。
「ヒビキ君、本当に大丈夫? 顔色が悪いみたいだけど」
「うん、さっきはゴメン。やっぱりボクはああいう所は向かないのかなあ」
「もうヒビキ君たら、心配したんだから」
ヒビキ君は黙ってわたしの顔を見つめてニッコリと笑みを浮かべました。そして腕を伸ばすと隣に座っているわたしの肩に優しく……。
「え? ヒビキ君……」
何も言わずにヒビキ君は腕に力をこめてわたしを抱き寄せたんです。わたし思わず身をよじってしまったんですが、逆にグイっと……。わたし体から力が抜けていました。抗うのをやめてヒビキ君に体をあずけると彼の温もりを感じたんです。目を閉じてじっとしていると、ヒビキ君はしっかりとわたしの肩を抱いてくれました。とっても幸せな気分でした。好きな人と触れ合うってこういう事だったんですね。このままずっとこうしていたかった……わたしヘンですか?
「冬月さん、何かいいことあった?」
隣の席の女子が話しかけてきました。
「え? な、なんでですか?」
「だって……冬月さんすごく幸せそうだし。それに……いちだんと……キレイに」
「そ、そんな……な、何もない……かな……」
「ふーん、そうなんだ。そうよね、テストも近いしねー」
やはりわたし幸せオーラを放っているのかしら。峯雲深雪さんにバレたらどうしよう。でもヒビキ君は相変わらず教室では他人のフリです。チョットさびしい。
図書館での不審な挙動も結局のところ理由は不明。いつかはワケを教えてくれるかしら。それにテスト勉強も出来なかったし。でもそんなこと今のわたしにはどうでもいいことです。だって……だってわたし本当に幸せ者だから。
それはそうと次の時間は、えーと世界史でしたっけ。天霧吹雪先生ですか。金髪碧眼の超美人、クラス担任の星先生の……まあウワサですけどね。案外お似合いのカップルかも。授業中はヒビキ君のこと考えないようにしないと。それではまた。
(わたしは峯雲深雪。すみませんまたひとこと言わせてください。冬月時雨さん、最近様子がおかしいです。二年生になって同じクラスになったんですけど、少しイメージが違って。成績優秀、品行方正の美人。男子はもちろん女子からも憧憬の目で見られる存在だったはずなんですが。たしかにわたし達より遥かに優秀のようです。ただ……ただ何か違和感を感じるのはわたしだけでしょうか。もしかしたら北風響君と……けして妬いてるわけではないですからね。男女交際は自由ですし。でもどうしても気になるんです。もう少し様子を見てみようと思っていますが、今は中間テスト対策に集中です、集中。北風、ハッキリして!)
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