第7話
わたしは冬月時雨。白金学院高校の進級したばかりの新二年生です。わたしの周囲の顔ぶれは、進級時のクラス替えにより大きく変わりました。でも知った顔の人も多いし楽しく過ごせそうです。
それに……それに何よりもうれしかったのは……。実はわたし一年生の時からひそかに好きであこがれていた男のコがいるんです。その人と今回同じクラスに……。
その男のコの名は……北風響君。クラスは違っていたけど、入学以来ずっと気になっていました。もちろんわたしの一方的な片思い。ほとんど言葉も交わしたこともないけど、いつも彼の姿を目で追っていました。
なぜかって? そんなの決まってるじゃないですか。一目惚れしてしまったのです。わたしには彼が輝いてみえました。身長はそんなに高くないけど、彫りの深い甘いマスク。優しそうなオーラを放っていていつもそばに女の子がいるんです。明るい性格で男子の友達も多いみたい。高校生活をとても楽しんでいるように見えました。
わたしはというと、彼とはクラスも違うし、帰る方向も逆だし。遠くから見つめることしか出来ませんでした。こんなこと恥ずかしくて誰にも相談出来なかったです。ほかのコはどうしてるんでしょうか? この学校けっこう自由な校風で、まわりではどんどんカップルが誕生していくし。
成績優秀で品行方正な優等生。これがわたしに対する周囲の評価。でも違うんです。テストの点がどういう訳かいつも少しいいだけ。嫌味とかじゃなくたまたまだと思うのですが。まわりの人からは勉強が出来ると思われていていつも頼りにされるけど。先日も先生にまでお手伝いを頼まれるし。
わたしだってほかのコと同じように彼氏が欲しい。北風君と……その、つまり……したいデス。
わたしの目標。学年トップを目指す……じゃなくて、北風響君にふさわしい女の子になってカノジョにしてもらう! これで決まりです!
そんなある日の放課後、わたしは一人で図書室にいました。今日も北風君とは話せなかったし。家から持参した和泉マサムネ先生のラノベでも読もうと思って。
わたしは読書コーナーの窓際にすわってカバンから文庫本を取り出しました。さて読もうと本を広げると、隣に人の気配が。思わず顔を向けるとそこには、き、き、北風君⁉ さっき下校する姿を見たような気がするのですが……。
「やあ、冬月さん。ここ座ってもいいかな?」
北風君は明るくフランクに声をかけてきました。
「えっ? えええ、ど、どどどどうぞっ」
思わず少し大きな声を出してしまい、まわりの人に迷惑をおかけしました。
「ハハハ、冬月さんどうしたの。そんなにあわてて」
「べ、べ、別に、あ、あわててませんけど。き、北風君が急に……」
「そうか、ごめんごめん。冬月さん図書室にはよく来るの?」
「え、ええ、たまにですけど」
「ふーん、そうなんだ。ボクはこういう所はちょっと苦手なんだ」
「き、北風君、今日はどうして……」
「うん、実はここに来れば冬月さんに会えると思って」
き、北風君、それってどういう意味? わたしが驚いていると、北風君は頭をかいて苦笑しました。
「冬月さん、一緒のクラスになれてうれしかったんだ。でも教室ではなかなか話しかけられなくて」
「そ、そうなんですか」
「イヤ、ほんとだよ。だから、その、今日こそと思って……」
「北風君……」
「どうだろう、ボクも冬月さんのカレシに立候補してもいいかなあ。ボクは今フリーだし」
わたしは頭の中が真っ白になってしまいました。だって、だってそうでしょう? ずっとあこがれていた男のコからこんな、こんな……。
「そんな、そんな、立候補だなんて……わたしは、わたしは……」
「ハハハ、冬月さん、落ち着いてよ。ごめんね急に変なこと言って。でも考えといてよ」
「北風君……わ、わたしなんかで、ほ、ほんとにいいの?」
「もちろんだよ。冬月さんが良ければだけど。ほかにも候補者が大勢いるだろうから、返事はまた今度という事で」
わたしはどう答えていいか分からず黙ってしまいました。
「それと冬月さん、教室では今まで通りふるまおうね。変なウワサになると困るでしょ。あとボクのことはヒビキって呼んでくれていいよ」
「え……でも……北風君……」
「ハハハ、そんなに悩まなくても……いい返事を待ってるから。それじゃあ今日はこれで」
北風君は席を立つとわたしの前から風のように去って行きました。わたしはあまりの展開に呆然としてしまいました。誰ですかこんな強引なストーリーにしたのは。わたしの身にもなってください。好きな男のコにいきなり……。でもうれしかったです。神サマ仏サマ感謝します。
お返事はいつすればいいんでしょうか。もちろん答えはOKです。ですが……ちょっと不安。わたし男のコとお付き合いした経験がないんです。北風君はどうなんでしょう。けっこう女の子にモテてるみたいだし。
でもわたし頑張って見ようと思っています。こんなチャンスめったにあるもんじゃないですよね。テストで百点満点とる方がよほど簡単ですよ。わたしにとっては、お盆とクリスマスとお正月が一緒に来たようなもんです。
北風君は、教室では今まで通りふるまおうと言っていました。わたしのことを心配してくれてありがとう。明日顔を合わせて平静でいられるかしら。でも北風君に迷惑はかけられません。二人だけのヒ・ミ・ツ。
翌日。登校してクラスメイトと雑談していると、北風君が教室に入って来ました。いつも通りわたしには目もくれずほかの男子と談笑を始めました。ホントはわたしの所に来て欲しいけど。今はガマンですガマン。
「冬月さん、ちょっといい?」
わたしの周囲に誰もいなくなるのを待っていたかのように、小声で話しかけてきたのは峯雲深雪さん。たしか北風君とは一年生の時から同じクラスでけっこう仲がいいみたいです。
「峯雲さん、なんでしょうか?」
「うん、冬月さん。きのう北風と、そ、その、えーと、図書室でなんて言うか……」
「わたしが……北風君と?」
図書室でクラスの誰かに見られたのかしら。心臓の鼓動が早まるのが分かりました。
「ご、ごめんね冬月さん。そ、そんなワケないよね。アイツきのうはほかの男子とカラオケボックスに行ってたらしいから。気にしないでね」
峯雲さんは手を振って自分の席に戻って行きました。わたしの困惑した表情を見て勝手に誤解してくれたようです。それにしても北風君をアイツ呼ばわりするなんて……ちょっとうらやましいです。
ホームルーム開始のチャイムが鳴って担任の星先生が教室に入って来ました。この先生、世界史の天霧先生と付き合っているとかいないとか。天霧先生は金髪碧眼で超美人なんですけどね。まあわたしには関係ないことです。
そんなことより、北風君と二人だけになるチャンスを作らないと。何か合図みたいなのを決めておけば良かったんですけど。次二人きりになったらLINE交換するとして、また放課後に図書室に行けば会えるのかしら。今から楽しみです!
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