第2話

 次の日。俺と天霧吹雪は肩を並べて歩いていた。俺の通う白金学院大学のキャンパス内である。


 今朝、目が覚めると吹雪はもう起きていた。昨夜のことは夢じゃなかった。金髪碧眼の美少女、自称俺のペンネーム天霧吹雪は存在していた。俺に小説を書かせるために降臨してきたそうだ。不思議なことだがどうも現実らしい。ドッペルゲンガーかどうかはわからない。もう少し様子をみる必要がありそうだ。それに、それに俺はどうも天霧吹雪に一目惚れしたことになっているらしい。


 朝食を済ませ(ちなみに吹雪は何も口にしなかった)、出かける準備をしていると吹雪もそわそわしだした。


「章太郎さん、ワタシも一緒に行きますからね」

「え? 俺は大学に講義を受けに行くんだぞ。留守番していてくれ」

「イヤです。ワタシは誰にも見えないし、邪魔はしませんよ。次の小説のネタのためにも大学を見学しておかないと」

「もう勝手にしろ。ただし講義中はおとなしくしていてくれ」


 こうして俺は吹雪を連れて家を出た。途中彼女とはほとんど会話をかわさなかった。そりゃそうだよ。俺は一人にしか見えないんだから。一人でブツブツ言っていたらアタマおかしいと思われるだろ。


 でもホントはこれだけの美女を連れているのに、誰にも見えないのはちぃと惜しいような、もったいないような……。まあしょうがないケド。


 昨夜。俺の分身天霧吹雪と俺は話し合った。これから書くWEB小説についてだ。しばらくご無沙汰していたサイトで活動を再開する。壮大なスペースオペラ、重厚な異世界ファンタジー、軽快なラブコメ。俺が書きたいのは……。

 分身なら言わなくてもわかるだろ。実は俺何も考えていないのだ。しかし天霧吹雪が華麗に復活する。その記念すべき作品ですよ。気合を入れて書かなければ。


 さて閑話休題。俺と吹雪がキャンパス内を歩いていると、後ろから声をかけられた。

「しょうちゃん、しょうちゃん、おはようー」

 幼なじみの早波若葉だった。


「おう、おはよう、これから講義か?」

 若葉とは小学校からのつきあいである。中学、高校と一緒で大学まで……。学部こそ違うけど。まあ言葉は悪いが腐れ縁というものだ。黒髪ロングをポニーテールにまとめている。まあそれなりに可愛い。 

「うん、今日は二限目からだから。と言うか、しょ、しょうちゃん、そ、そのコ誰?」

「え⁉ なに? いまなんて……」

「だから、そ、その、となりの、き、金髪の……」

 俺は驚いて吹雪と若葉の顔を交互に見た。吹雪は平然とすました顔でいる。

「わ、若葉おまえ、み、見えるのか?」

「は? しょうちゃん何言ってるの? うちの大学のコじゃなさそうね。どうしたの?」

「うん、いや、その、つまり」しどろもどろになる俺。

「はじめまして、天霧吹雪と申します。早波若葉さんですね」吹雪はにっこり微笑んで頭を下げた。

「アマギリフブキさん?」

「はい、よろしくお願いします」

「わ、若葉、実はだな……」

「もういい! しょうちゃん早くしないと遅刻するわよ!」

 若葉はなぜか怒ったように走り去ってしまった。


 早波若葉には俺の分身、天霧吹雪が見えることが判明した……。


「どういうことだ?」俺は吹雪を問い詰めた。

「おまえは誰にも見えないはずだろ!」

「そうよ。でも基本と言ったでしょ。例外もあるのよ」

 例外? なんだ、それは。そんな設定聞いてないぞ。

「星章太郎さん、あなたに特別な感情を抱いている人にはワタシが見えるのよ」

「と、特別な感情だと?」

「そう。特別な感情……。あの人が早波若葉さんですか……」吹雪は若葉が走り去った方向をじっと見ていた。


 天霧吹雪のいうところの「特別な感情」とは。申し訳ないが俺には分からない。早波若葉は単なる幼なじみ。それ以上でもそれ以下でもないはずだ。だれか教えてくれ。「特別な感情」。それって何? 誰が決めたんだ?


「なあ吹雪、ほかにも例外はないのか?」

 例外だの「特別な感情」だのもうカンベンしてほしいのだよ。

「フフフ、それはヒミツですよ。さあもう時間です。ワタシは外で待ってますから」

 吹雪はそう言い残すとこつ然と俺の目の前から消えた。この現象は……。うーむ、やはり彼女はドッペルゲンガーか……。


 教室に入って着席すると、となりの席に友人の眉村がすわった。高校時代はサッカー部員だったという短髪のイケメンだ。

「よう星。金髪のチョー美人はどうした?」

 なんでコイツが吹雪を知っているんだ?

「早波さんからLINEがきたぞ。アマギリさんとかいうすごい美人を連れてるって」

 また若葉のやつ余計なことを……。

「眉村、悪いけどその件については俺もよくわからんのだ」

「水臭いヤツだな。どこのコか知らんが後で俺にも紹介してくれ」

「うるさいなあもう。彼女の名は天霧吹雪、俺の分身だよ!」

「?????」


 こうして午前中の講義は終了した。


 俺は眉村とキャンパス内の学食に向かった。途中で吹雪がどこからともなく姿を現して合流してきた。やはり眉村には彼女は見えていないようだ。フーン、男の友人には見えないのか。眉村は俺に「特別な感情」は抱いていないということか。薄情なヤツめ。


 学食に若葉が来ていないこと祈っています。





 


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