第6話 勇者の息子【side.ロック】

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 今日はシビルと一緒に初めて狩りを手伝う日だ。廃村跡から少し離れた森で、シビルに習いながらうさぎ用のトラップを仕掛けていく。


 最初は可哀想だと思ったけど、生きていくためにはお肉を食べないといけない。だから捕まえたら毒がない限り、ちゃんと全部食べる。僕や他の人が王都で食べ残したお肉たちは、一体ウサギ何匹分だったのだろうなんて、そんなことを考えていた。


 生け捕りした2匹のソードラビットを持ったシビルが、優しい目で見守ってくれていた。


「ロック、すごく上手だよ!罠の掛け方はもう完璧だね!ロックのおかげで、きっと明日もお肉を食べられるよ!」


「そ、そうかな?へへ……」


 今日の分の罠を仕掛け終わり、シビルと手を繋いで帰路につく。初めてシビルを見た時は、みんなと違う肌色と角を持ったシビルの事がちょっと怖かった。


 だけど、川を泳ぐ魚が跳ねたり、木の上で猫が寝てるだけでとても楽しそうに笑うシビルを見てると、僕と何も変わらないようにしか思えなくなった。


 シビルは僕とお父さんにとって命の恩人でもある。魔法も使えるから、きっと今のお父さんより強い。だけど僕と取っ組み合いの喧嘩する時は、あの時のような強さは絶対に見せない。ちゃんと真正面からぶつかりあって、最後は仲直りしてくれた。


 ここに来て得られた友達で、お姉ちゃんなシビル。シビルと手を繋いで歩くようになったのはいつからだろう。どっちから始めたかなんて覚えてないけど、手を繋いでると手の温かさも同じになるから、僕はこの時間が大好きだった。


 ふと横を少し見上げると、気づいたシビルが微笑み返してくれた。太陽の光を受けた紫色の髪が王都で見たアメジストという宝石よりもきれいに見えて、夕日よりも真っ赤な瞳とぶつかった時、何故かちょっとだけ顔が熱くなった。


 ここに住むようになった最初は何もなくて、お金もおもちゃも手に入らない生活が嫌だったけど、優しいトリスタンおじさんやシビルと一緒に暮らすのはすごく楽しかった。王都では教えてくれなかった色々なことも教えてもらえた。


 木の登り方も、泳ぎ方も、魔獣からの逃げ方も、全部ここで習ったものだ。僕はこのままずっとここで暮らしていくのかもしれないと信じ始めていた。


 燃えカスも片付き、井戸以外何も残っていない廃村跡を二人でゆっくりと歩いていく。


「あれ?ロック、あれってリシャールさんじゃない?」


「本当だ!お父さんだ!おかえりなさーい!!」


 丘を上がる少し手前の倒木で、お父さんが座っていた。その横にはなんと、王都で買ってきた色々な物が積まれているのであろう馬車があった。


 お父さんは王都で馬車を買えるくらい頑張ったのか!すごく誇らしくなって、胸が一杯になった。シビルと繋いでない方の手を思い切りお父さんに振り返す。


「……え、お父さん?」


 だけど、お父さんは笑い返してはくれなかった。お父さんはこちらに気付くと、音を立てずにゆっくりと剣を抜いていた。それが何を意味するのか、全然僕にはわからない。


 その顔は物凄く怖かった。まるで、魔王を相手にしてるのかと思うくらい、険しい表情。そしてその表情のまま猛然とこちらに走ってきた。僕は思わず、シビルの手を強く握り込んでしまった。


「リシャールさん!?ど、どうして!?」


 シビルに何をするつもりなの!?


 ふと魔獣に殺されたお母さんのことを思い出す。


 お母さんの顔、目、鼻、血で汚れた口元を。




 お母さんの血で汚れた、魔獣の牙を。




 ……いやだ!駄目だ!そんなことはさせない!!今度は僕がシビルを助けるんだ!!




「シビル!伏せて!」


「きゃっ!?」


 咄嗟にシビルを両手で突き飛ばして、覆いかぶさった。


 きっと一撃までなら、僕の体で剣が止まるはず。シビルならきっと、その隙にお父さんを止めてくれる!




 お父さんの剣が袈裟斬りに振り抜かれた時、血飛沫が僕の顔に飛散した。




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