第18話 再び来店、そして受け取り

 自宅へ戻った俺たちは昼食後、さっそくポーション作りに取りかかる。


 先日より大きな鍋をふたつ用意、片方でヒールポーション、もう片方でマナポーションを作成。


 材料を入れて煮込み、成分が十分に抽出されたころを見計らって魔石のけずり粉ファールを投入。


 完成後は空きビン――俺が魔王討伐の旅のさなか収納魔術ストレージ内に回収していたものや、工房にあったものへと入れていく。


 そして翌日の朝。


「――よお。できてるか?」


 約束通りシャノンが来店した。大きなリュックサックを背負い、カバンを肩から下げた姿だった。


「はい。この通りです」


 俺は彼女の予約分、ヒールポーションとマナポーションそれぞれ六本ずつをカウンターに置いた。


「……おう。確かに受け取ったぜ。サンキューな」


 彼女はそう言ってカバンの中へポーションを入れていった。


 ……それにしても、ずいぶんと動きづらそうな大荷物だ。


 確かに魔術師は基本後衛であり、前衛に比べれば激しく動く機会も少ないが……それでも戦闘面でも移動面でも苦労するだろう。パーティーを組んでいるらしい

が、荷物持ちポーターはいないのだろうか。


 ……いや。


 あの大きなリュックは自分のものだけでなく、仲間のものやパーティー共同で使うものを入れるために用意したものではないか。


 そして、それとは別にわざわざ肩かけカバンも用意している。すぐには使わないものをリュックに、いざという時すぐに取り出したいものをカバンに、と使い分けるためだろう。


 ひょっとして、彼女こそがポーターなのではないか――


「これからクエストへ出かけるんでしたね。どんなクエスト受けたのですか?」


「まだ決めてないな。ギルドで確認してからだ」


 俺がもの思いにふけっているのをよそに、リサはのんびりと言った。


「くれぐれも気をつけてくださいね~」


「分かってるって。ヘマなんてしねーよ。そんじゃあな」


「ありがとうございました~」


 店を後にするシャノンの背中へリサは手を振り見送った。


「……彼女、ずいぶんな大荷物でしたね~」


 表情には出さなかっただけで、やはりリサも疑問に思っていたか。


「てっきり魔術師だと思っていたのですが……彼女、ポーターなのでしょうか?」


「かもな」


 ……まあ、たとえそうであるとしても『だからどうした』という話でしかない。


 誰がポーターを務めようがそのパーティーの自由である。それにポーターは仲間たちを支える、誇るべき大事な役割だ。彼女が望んでやっているのであればそれで結構ではないか。


「……さて」


 多少気になったものの、それ以上首を突っ込む理由もない。さっさと意識を切り替える。


「それより開店準備を進めるぞ。今日は店舗の棚移動と掃除だ」


「はーい」


 俺たちは倉庫から掃除用具一式を取りに行く。それからエプロンや頭巾などを身に着ける。


 いざ準備万端、さっそく始めようとした時、


「……あれ?」


 リサがなにかに気づいたように声を上げた。


「どうした?」


「これ、エミルさん……のものじゃありませんよね」


 リサは床から一枚のハンカチを拾い上げた。


 可愛らしいデフォルメ調で猫が刺繍されているものだ。確かに俺のものではな

い。趣味から大幅に外れている。


「ああ」


「私のでもないし……きっとシャノンさんが落としたのでしょうね」


「だろうな」


 心当たりがあるのは彼女だけだ。


 店で保管しておけば、いずれは取りに来るだろうが……彼女が店を後にしてまだ十分ほどしか経っていない。


 いまから追いかければクエストへ出る前に届けられるだろう。そして場所も分かる。シャノンの話しぶりから、冒険者ギルドへ立ち寄る事はほぼ間違いない。


「……せっかくだ。届けに行ってくる」


「分かりました。ギルドの場所は覚えてますか?」


「ああ」


 冒険者ギルドへはファルマシアこの町へ来た初日に立ち寄った事がある。建物も大きくて目立つし、案内は不要だ。


「では行ってくる。留守番はまかせたぞ」


「はーい。いってらっしゃーい」


 俺はハンカチを手に、冒険者ギルドへと向かった。



━━━━━━━━━━━━━━━

お読みいただきありがとうございます。

よろしければ、下部の「♡応援する」および作品ページの「☆で称える」評価、フォローをお願いいたします。

執筆の励みになります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る