第34話 レッサーワイバーン戦③
「シャッ」
高速で空中を動くレッサーワイバーンとの接触の間際に、強化した枝槍を投げる。
らせん回転をする枝槍がハイゴブリンの顔へと吸い込まれていく。
だが枝槍がハイゴブリンの顔に向かってすぐに、レッサーワイバーンが大きく動いて回避する。
そのため、レッサーワイバーンの攻撃も大きく外れる。
「回避動作に移るのが速い、警戒してるか」
先ほどの毛槍の攻撃を見せたせいか、木の枝の投げ槍も警戒されていた。
こりゃ食らわんか? いや数を増やせば…。
だが、その後に毛槍、枝槍を使った連撃を行っても、レッサーワイバーンは攻撃をかわしたり、器用に《炎息》を少しだけ使って消し炭にしていた。
あの
参ったなぁ…。
新しい攻撃を試すたびに相手の対応速度が速くなっている気がする。
戦闘中に強くなるのは主人公の特権じゃないのかよ。
ひょっとしてあのレッサーワイバーンが主人公だった? 転生してる?
「魔素残量が5割を下回りました」
冗談言っていると、ほどちゃんの警告により状況が悪化する。
いろいろ試しているうちに魔素が随分と減っていた。スキルを使いすぎたか。
おそらく魔素の耐久勝負は向こうが勝ちだ。ゴブリンの上位と竜の下位では、後者の方が圧倒的に魔素量を持っているだろう。そのうち俺の方がガス欠になって手数がなくなる。
決め手はなし、いや決め手はあるにはあるがリスクたっぷりの手段のみ。
飛び込みの一撃なんてやりたくない。
逃げるのは? 逃げ切れるか? あの高速に動くレッサーワイバーンから?
俺が全力で走るのより早いのに? 冗談だろう。
いや、そういえばあそこになだれ込めば行けるか?
あの場所なら、俺の身を隠せるかもしれない。
俺は急いでその場所へと向かう。
後ろから炎のブレスがやってくるが、それを助走をつけたのちに飛び、木を次から次へと蹴って3次元に避ける。
次々とくる攻撃を何とか避ける。
こちらが逃げに走っているとわかると攻撃の頻度が増えてきた。
あの野郎こっちが逃げに走ったとみて、ここぞとばかりに攻撃してきやがる。
やばい、息が切れそうだ。
だがやっと見えてきた。
キングゴブリンと無数のゴブリン達が住まう谷の拠点が。
谷からはこの戦闘の音は聞こえていたらしい。谷の底となる部分には多くのゴブリンがひしめいてこちらを見ていた。
ゴブリンキングも谷の底の奥にある寝床の穴から出てきて、何だとこちらを見ている。
俺は森から見える谷の底への道をたどり、底に広がっているゴブリン達の集団へと無理やり入っていく。
そしてスキル《隠密》を発動した。
ゴブリン達は自分たちの中に入ってきた異物をどこかと探そうとして攻撃をしようとしたが、探しきれずにすぐに見失った。
スキル《隠密》。
俺がゴブリン達の護衛をしているときに身に着けたものだ。相手の意識が他に行き、集団の中だったら簡単に隠れれるほど。
実はレッサーワイバーンの時も使っていたのだが、さすがにまだレベルが低いために正面から隠れられるというほどではなかった。
だが、この状況なら隠れられる。ある程度似ているゴブリン達の中での《隠密》なら相手は簡単に見失うだろう。
《隠密》がないと毛深いゴブリンってめっちゃ目立つんだよな。猿並みにあるから。
俺はそのまま紛れ込みながら奥へ奥へと進んだ。
「くそう! あいつどこ行った!」
追いついてきたハイゴブリンが目の間にいる無数のゴブリン達を見て毒づく。
レッサーワイバーンも大量のゴブリンがいる中、隠密の状態の俺を見つけられなかった。
ハイゴブリンとレッサーワイバーンの血走った眼を見て、ゴブリン達は後ろにずりずりに下がっていた。
普段は敵を見ればゲキャゲキャ喚くのだが、そんなやつはすらいない。皆音をたてないようにひっそりとなり、レッサーワイバーン達から目を離せなかった。
おお…。あのどんな奴にも条件反射で突っ込んでいたゴブリン達が、万歳突撃をしない。
それほどの差があるのか。種族としてもうあきらめているのか…。
絶対に勝てないとわかる奴には、本能でそうするのかもな。勝つ機会がないなら攻めるだけ無駄だから。
そしてハイゴブリンとレッサーワイバーンは手をあちらこちらへとふるい、目の前にいたゴブリン達を殺し始めた。
「どこだ! どこにいる! 出てこい!」
レッサーワイバーンは尻尾をふるってゴブリン達を弾き飛ばす。
「あのゴブリン! 舐めやがって!」
怒りが収まらないらしい。レッサーワイバーンもそんな目で見ている。
俺にあれだけ避けられたのが、腹に立ったのかな。プライド、傷つけちゃった?
しばらく、ハイゴブリンとレッサーワイバーンの怒鳴り声と、ゴブリン達の悲鳴が聞こえた。
そこにゴブリンキングが配下を連れて、何事かとゴブリン達を押しのけながらこちらに近づいてきた。
「ハイゴブリンざま! なにようでずか!」
「うるせぇ!」
そのハイゴブリンの怒鳴り声と同時に、ゴブリンキングの首が吹っ飛んだ。
レッサーワイバーンの爪が一瞬で振られたのがわかる。
ぽーんと首が飛んで、近くにいたゴブリンの頭にぶつかり、ゴトリと地に落ちて、ごろごろ転がった。
そしてその後レッサーワイバーンがゴブリン達を再度睨みつける。
眼力だけでゴブリンを殺せそうだ。
皆それを見て、息さえもできなくなった。
蛇に睨まれたカエル、レッサーワイバーンに睨まれたゴブリン。
「ふん! まぁいい、ゴブリンなんてゴミ、どこにでもいる。皆殺しにするか。そうすりゃさっきの気持ち悪いゴブリンも死ぬだろ。」
そこからレッサーワイバーンによる蹂躙が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。