第33話 レッサーワイバーン戦②

俺は自身の毛を手一杯に引きちぎり、それらに《鋭利》と《堅固》で強化をする。

すると大量の毛によってつくられた針ができた。


今度も巨大な木の枝の上に待機する。待ち受けるにはこちらの方がいい。

すると、今度は真上からがさがさと木の音がする。


途中にある細い木の枝を無視するかのようにレッサーワイバーンが頭上から急降下してきた。


再びのレッサーワイバーンによる爪攻撃。俺はレッサーワイバーンの腕とハイゴブリンの同時攻撃を避けるためにレッサーワイバーンの腹の向こう方へ飛ぶ。


こうすればハイゴブリンと俺の間にレッサーワイバーンが入るために俺に攻撃しにくくなる。


そして俺は手に持った毛針をレッサーワイバーンの目へと投げた。

あいつの目をどうにかできれば、少なくともワイバーンは動けなくなる。大概の奴は目が弱点だからな。


だがそれと同時にレッサーワイバーンは体をひゅるりと回転させて、ハイゴブリンが俺に対して攻撃できるように姿勢を変えた。

あのレッサーワイバーン、機動戦慣れすぎじゃないか!?


そして俺が投げた毛針はワイバーンは瞼を閉じて防ぐ。

瞼で防がれたなら、さすがに剛毛といえど細い毛針であの硬い皮膚を貫くのは無理だ。


それにしてもよくみえたな。自分に向かって直線に飛ぶ毛ほどの針なんて距離感狂うことも相まって全然見えなさそうだが。

ああ、そういえばあいつスキル《魔眼》を持っていたな。そのせいか。


このスキルを通してみれば、毛針はスキル付与のせいで魔素が詰まったものになったために、スキル《魔眼》持ちからすれば、俺が微かに光るものを投げたようになったようだ。


くそう、事前にほどちゃんに聞いていたのに生かせないとは。

この攻撃であいつを抑えるのは無理だな。


「ガアアアアア!」


だが、もう一つ予想外にダメージを食らったものがいる。

ハイゴブリンが手で目を抑えながら叫んでいた。


「イッテエエエエ!」


ハイゴブリンは俺へと攻撃を仕掛けるつもりが、俺の毛針攻撃の巻き添えとなり、顔全体に何本か刺さったようだ。目も抑えているから眼も負傷したのだろう。


うげ、自分でやっといてなんだがいたそうだ。

レッサーワイバーンはいったん攻撃をやめて地上へと着地し、ハイゴブリンは肩で息をしていた。


あー… 本体を攻撃してしまった。

しまったな。どうなるか。


「痛い痛い! もういい! あいつを殺せ! ワイバーン!」


やっぱ怒ってそうなるパターンか~。

これ、森が火の海になるな…。


「おまえが悪いんだぞ! お前がとっととあいつを弱らせないからだ!」


ハイゴブリンはそういって、レッサーワイバーンの体を持っていた杖で執拗に強くたたく。

レッサーワイバーンはハイゴブリンをぎろりと睨みつけた。


「なんだその目は! 子供がどうなってもいいのか!」


あ、そういうパターンなんだ。呼ぶべきは児相じゃなくて警察だったな。

あとくそ親とか言ってごめん。いい親だよ。それゆえに俺がピンチになってるが。



しかしこれ、ハイゴブリンだけ倒せばあいつ帰ってくれないかな。


正直、情報が欲しいからハイゴブリンを最初に狙わなかった。できれば現在の戦争の情報が少し欲しいんだよな。それにハイゴブリン倒した後のレッサーワイバーンがどうなるかわからないし。


だからある程度制御されているうちにレッサーワイバーンの行動不能を狙った。


だが千日手状態だ。レッサーワイバーンの攻撃は食らわないが、俺の攻撃もあいつに食らわせられない。


全力の《鋭利》スキルによる手刀を行えば一撃食らわすことが可能かもしれないが、さっきの《高速機動》を見たらわかる。絶対そのあとの反撃で死ぬ。




そういうことを考えている間に、レッサーワイバーンの口元から再び赤い光が漏れ始め、開かれたその口から熱い息吹をこちらへとむけてきた。


俺は全力で走ってその息吹から横へと避けるが、レッサーワイバーンの首振り速度のほうが速い!


あっつい! 毛が燃える!


だがそれでも走り続けて、何とかブレスの範囲外へと抜け出す。


くそう、俺の自慢の毛皮服と毛が黒焦げだ。

だが、悠長に体を心配している暇なんてなかった。


次の炎が吐かれる音がする。

音を聞いてすぐに移動する。


畜生。あんな攻撃をボコボコ打てるなんてチートじゃねぇか!


「あの炎、無限に打てるのか!?」

「いいえ、炎には大量の魔素が使われています。連続使用回数には限りがあります」

「連続ってことは、しばらくすればその使用回数が回復するってことか」

「はい。連続使用回数は推定3回です」


ふーむ。3回連続であの炎を撃たせればいい…。いや撃たせた後はあの近接が待っている。

それにおそらく…。


相手が正面から飛んできて爪攻撃を仕掛けてくる。上空からの急降下ではないから速度はそれほどではないので、大きくかわせた。

レッサーワイバーンは横を通り過ぎても、それ以上の攻撃はしてこなかった。


やはり、スキル《炎息》の3回目は撃たない。切り札の一回として残しているのか。

それとも二回しか打てないと思わせて、その勘違いによる攻撃を誘っているのか。


おれにはほどちゃんがいるからその手にはのらないが。

だがレッサーワイバーンをどうにかするのは無理だなこれ。


こうなったら本丸を狙うか。


再び俺は枝を切ってスキル《鋭利》《堅固》で強化し、短い投げやりとした。

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