第32話 レッサーワイバーン戦①
レッサーワイバーンの口から放たれた赤い炎が俺の方へと向かってくる。
やべぇ!
とっさに木から落ち、途中で木を蹴って炎からさらに距離を取る。
炎は俺がいた場所をたやすく飲み込み、そこから周辺にまで広がっていく。
やがて炎は引き、俺が乗っていた木はちょうど火を受けたところで二つに折れ、周囲の木の枝葉は焼け落ちていった。
弱らせるってレベルじゃねぇ!
こんなん食らったら戦闘不能どころか黒こげの炭素になるじゃないか!
「レッサーワイバーンってあれが弱らせるにはいるの?!」
「レッサーワイバーンは子供を火で叱るときがよくあります」
「それ死んだりしないのか?」
「たまに死にます」
「クソ親じゃないか」
そうだ、児相に電話しよう。
「おい、ワイバーン。さすがにあれはやりすぎだ。火は使うな」
ハイゴブリンが首を強くたたきながら命令した。
お前の命令ミスじゃねぇか。それで俺が死んだらどうするんだ。
命令を受けたレッサーワイバーンはハイゴブリンを睨みつけたのちに頷いた。
テイムされても反抗心とか抱くのか?
仲良くないの? 虐待されてる? 児相に電話する?
だが命令を受けたレッサーワイバーンは命令通りに火を使わずに、一度浮かび上がったのちに滑空してこちらへ急降下してきた。
レッサーワイバーンがすれ違いざまにその手の爪をこちらに伸ばしてくる。
《魔眼》によってそれにもスキルが使われていることがわかる。
食らったら怪我するじゃすまないな。よくて骨折、悪くてバラバラ死体。
多分あれに《堅固》は通じない。
というかやっぱりあのレッサーワイバーン話聞いてないな。ハイゴブリンは殺したいのではなく捕まえたいのだが…。
憂さ晴らしにあいつが欲しいものを壊してやろうとか考えてないかあいつ。
そのレッサーワイバーンによって繰り出される爪を紙一重でジャンプして避ける。体の下を通る爪がさく空気の音が甲高い。
迫る刃に心臓が高鳴ってくる。あれは死神の鎌だ。
爪が通り過ぎたところにある木に切れ目ができる。
レッサーワイバーンはすぐに回り込んで上昇する。そして俺から見て森の空に隠れた。
バサリバサリとレッサーワイバーンの羽ばたきの音だけが聞こえてくる。
無音の急降下か…。 さっきは崖際で見えていたからよかったが…。
俺は位置を絞らせないために軽めの速度で適当に方角を変えながら走り回る。
その間に相手のことを確認することにした。
「レッサーワイバーンのスキルは何?」
「主なスキルは《飛翔》《炎息》《斬撃》《硬化》《毒針》《高速機動》《魔眼》《狂乱》です」
「見てないのは《毒針》か。だが大体見た通りの力だな」
とりあえず向こうの切り札っぽいのが確認できたのはいい。
ほどちゃんに確認していると、甲高い音が聞こえる。
風を高速で切るような音。
俺はその音の方向を確認しつつ、走っている速度をギアチェンジして最高速まで上げる。
相手は位置エネルギーを利用した急降下に加えて、スキル《高速機動》を持っているために、攻撃自体をキャンセルさせることはできないようだ。
来た!
レッサーワイバーンの牙と爪がきらりと光る。あいつの顔が死神に見えてきた。
再びの爪にスキル《斬撃》を交えた攻撃。すんでのところでバク宙で回避する。
《頑強》によって引き延ばされゆっくりとした時間の中、ハイゴブリンの憎たらしい顔が見える。
ハイゴブリンが杖をこちらに向けてスキル《捕縛》を打ってくる。
よけきれない!
俺はとっさに体をひねりながらも体の毛を引きちぎって《捕縛》の軌道上に投げる。
が、それとは関係なく俺の後ろを《捕縛》が通り過ぎていった。
ハイゴブリンは高速機動の
あぶねぇ、あいつがついていけなくてよかった。
見るとレッサーワイバーンは再び上昇しようとしていたが、その時にハイゴブリンの怒鳴り声をあげているのがわかった。
それはお前のミスだよ。まぁ俺は助かったけど。
俺のとっさの体毛フレア作戦は無意味となったな。まぁ通用するかわからない作戦だったからよかった。
とりあえず、遠距離から攻撃できる手段を作らないといけない。
あいつとの近距離戦はリスクが高すぎる。
俺が近接で1のダメージを与えている間に5~10くらいのダメージを返してくるのは間違いない。
だから遠距離攻撃だ。
俺はちょうどいい木の枝を探して、《堅固》と《鋭利》を付与して簡単な短いやりを作る。
今度は木の枝に乗って待ち構える。
再びレッサーワイバーンが来た時、爪は俺が乗っている枝ごと切ろうとしてしていく。
俺は今度は上に逃げずに下に避けることにした。枝から回転するように下に落ちて、枝を蹴ってさらに勢いよく下へと向かう。
上に逃げるとハイゴブリンの《捕縛》を食らう可能性が出てくる。
おそらく当たらないだろうが、まぐれ当たりで一生捕縛とかいらない。
下に避けて、見えたレッサーワイバーンの翼の膜に向けて強化した枝を投げる。
らせん状に回転した枝が翼の膜に刺さるが、表面のところに刺さっただけに見えた。
ダメージというダメージを負ったようには見えない。
スキル《硬化》は伊達じゃないってか。
どうする? 再び投げ槍するか? 何回かやればダメージが通るかもしれない。
だが、向こうに攻撃の機会があるので、あまり中途半端なダメージを与えると近接戦などせずに逃げるか、怒るかの可能性がある。
逃げるんならいいんだけどな。
怒って遠距離から延々とブレスを吐いてここら一体を火の海とかは勘弁だ。
こっちは毛深いのだ。試してないが毛が燃えやすかったら困る。
これはゴブリン達の護衛の傍ら開発した新技を試すか。スキルというほどではないが、面白そうな攻撃ではある。
多分こちらの方がダメージが通りそうだ。
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