第31話 人生、強敵とは不意に出会うもの
しばらくゴブリン達の護衛をしつつ、経験値やスキルを獲得したり確認したりすると、やがてゴブリンキングの拠点が見えてきた。
長かったなぁ。まぁ、いい経験値上げになったし、それにファーリーゴブリンから進化もした。
…あまり望ましいといえるような進化ではなかったが。
それに結局ゴブリンの数は一万には届かなかったな。ほどちゃんに確認しても一万に届くことはなかった。
案外集まらないものだ。もっと早くから護衛していれば集まったかな。いや、難しかったかも。
護衛といっても完全にできるわけじゃない、毎度どこかで襲われて数を減らしているからな。
遠くに見えるゴブリンキングの拠点は角度のついた崖で形成された谷だった。
崖の一面に穴が開いており、その穴にゴブリン達が住んでいるのがここからでも見えた。
…さすがゴブリンキングの里、豪華だし眺めがいいな。
その里に見えるゴブリン達は一万を超えるほどはいたし、おそらくこの軍勢の合流で2万以上になるだろう。
こいつらの前でゴブリンキングと決闘し、勝利すれば俺は確実にゴブリンキングになれるだろう。
以前のゴブリンキングとの戦闘を思い浮かべ、勝てる手段を頭の中で何個かイメージする。
まぁ、何とかなるだろう。よし、いくか。
そう決意したころ、上空から何か音が聞こえてきた。
巨大な何かが唸るような、叫ぶような音だ。その音で地響きが起きそう。
何の音だ?
ゴブリンキングの里を見るために登っていた木から空を見上げると、そこには巨大な翼を持つ生き物がいた。
灰色の硬そうな鱗を見える胴体いっぱいに抱え、その口からは狂暴な牙が見える。
翼の先にある鋭そうな爪を持つ手でつかまれたものは体がすっぱり切れるだろう。
その持ち主はあたりを見渡すように優雅に飛んでいた。
あれは…。
「ほどちゃん。あれは何?」
「レッサーワイバーン。ハイゴブリンテイマーによるテイムを確認」
またハイゴブリンか! くどすぎるだろう。
それにしてもレッサーワイバーンか…。
レッサーといえどワイバーン、亜竜だったりいわれるがそれでも竜に近い生き物だ。
大体の物語ではモブを狩る側で、多くの生物の上位に立つものだ。
ゴブリンでは基本かなわないもの。かなったらそれはワイバーンではなく鳥かなんかだっただろう。
そんなのが出張ってくるとはどういうことだ?
ん? あの背にいるのは?
よく見るとワイバーンには簡素な鐙がつけられており、その上に誰かが乗っていた。
「ほどちゃん。あの背に乗っているのは?」
「ハイゴブリンテイマーです」
「ご主人様も一緒ってことか」
ハイゴブリンは黒いフード付きのローブを着て、その上に簡素な鎧を着ていた。
文明が! 文明の香りがする!
正直それほど見た目のいい服ではないが、それでも服を作るにはそれなりの文明が必要だ。
機織りとかあるのかな。それとも一つ一つ人の手で編んでるんだろうか。手編みマフラーとかみたいに。
しかも、ワイバーンなんて上位種がハイゴブリンにテイムされてるし、ハイゴブリンって意外と優秀?
そんなことを話していると、あたりを見渡していたワイバーンに見つかったようだ。
ワイバーンはこちらにやってきてホバリングする。
「ほう。フォグスパイダーを殺されたから見てきたら、なんか変なのがいるな」
ハイゴブリンが話しかけてきた。普通に聞ける言葉だ。
そこらへんは普通のゴブリンとは違うらしい。
しかし、変なのとはなんだ変なのとは。
「よく見るとこれはゴブリンに毛が生えているのか? 気持ちわるい!」
「気持ち悪いとかいうな! 傷つくだろうが!」
「話した!?」
まぁ、確かに俺の体はゴブリンから見たら気持ち悪いかもしれない。
俺の体は全身から目立つ毛が生えていた。
先ほど進化したといっただろう? その進化先が毛を持つ奴しかいなかったのだ。
その名もストロングファーリーゴブリン。直訳で剛毛ゴブリンだ。勘弁してくれ。
体は大きくはならなかったが、もともと生えていたファーリーゴブリンの毛がさらに濃くなった。
ただ毛深くなっただけだよこれ。
元々つるつる肌のゴブリンを見ていると、毛がめちゃくちゃに生えたさまは確かにこれはないなって思う。
けど最初からこういう生き物だって思えば見れなくはないか。
全身から毛が生えているために、今は緑色の肌を持った猿に見えなくもない。
これ、本当に「毛の神」がかかわってるんじゃないだろうな? だとしたらよそ行ってくれよ。
なんで俺、そんなのに目をつけられたんだよ。
「こんな毛の生えたゴブリン? がフォグスパイダーを倒したのか? そんなわけがないか」
「…」
俺が倒したことは黙っておこう。無理に敵を作る必要もない。
実力が不明なワイバーンになんて襲われたくない。
「ふむ。とりあえず捕まえておくか。」
そういって、テイマーは杖を取り出してこちらへとむけた。
「《捕縛》」
そして何か紐のようなものが飛んでくる。
おれはそれをさっと横に避ける。
ふぅ。簡単だな。
作っておいてよかったな、スキル《魔眼》。
《魔眼》といえばファンタジー定番スキル。まぁこれは魔素を見るだけのスキルだが。
そのうち死眼とか作れるかね。見るだけで殺す眼。いや誤って自分を殺しそうだ。
「避けただと?」
「いきなりなんだよ?」
理由を聞こう。
とりあえずでそこら辺にいる虫のようにテイムをされては困る。
「《捕縛》」
だがハイゴブリンは無視してこちらに再度スキルを使った。
当然避ける。
「いやいや、だからなんで捕まえようとする?」
「面白そうなものはすべて捕まえるのだ。だからお前も捕まえる」
なんだそれは。ゴブリンマスターかお前は。
しかし、困ったぞ。敵対はしたくないが、テイムもされたくない。
「まぁ話し合おうよ」
「ふむ。ワイバーンで弱らせるか」
「聞いちゃいねえ」
思考もゴブリンマスターじゃないか。弱らせてから捕まえるって、あれ実際にやったらただのいじめだからな?
それにそれワイバーンじゃなくてレッサーワイバーンだろうが。見栄はるな。
「ワイバーンよ。あいつを弱らせろ」
そういうと、レッサーワイバーンはその口を開けて赤い炎のぞかせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。