第26話 初見殺しであり最強コンボ


「おまえが投げるんかい!」


と、突っ込んでる間にも槍は迫ってくる。

宙に飛ばされながらも、俺はとっさにスキル《堅固Ⅱ》を使用して手を部分的に強化する。


「フッ!」


スキル《頑強》によって3倍に伸ばされた体感時間を用いて、強化した手で正確に槍をたたき落とす。

だが、ゴブリンキングは次の槍を投げていた。


こういうシーンでよくあるのが槍を取って投げ返すことだろう。あれはかっこいい。

よし、試すか。


迫る槍を手に取って、ぐるりとひっくり返す。そしてそれを強く握って狙いをつける。槍の持っているところがべこりとへこむ。


「ェ”イ”ヤ”!!」


スキル《頑強》による3倍の力によって槍が勢いよく発射される。ブゥゥンと低い風切り音が鳴った。


ゴブリンキングは槍を投げた後の硬直で動けず、俺の投げた槍はまっすぐと狙い通りの足へと突き刺さった。


「グァ」


ゴブリンキングは痛みで小さく唸り軽くかがむが、それだけだった。

通常のルートでゴブリンキングまで至ったのだ。


目の前の敵は歴戦の猛者であり、その意地があったのだろう。

足の痛みなど気にせずに、杖を両手で構える。


まるで野球のバットの動作のように。


「まずい!」


着地を狩られる!

俺は両手両足を前にして防御の姿勢を取り、スキル《堅固Ⅱ》で正面を硬化させる。

だが宙に浮いている俺にはそれしかできなかった。


体は落ちていく。ゴブリンキングが構えている場所へと。



「ムン!」


タイミングをはかったゴブリンキングにより、杖が勢いよく振られる。

杖は《堅固Ⅱ》を貫通し、攻撃を受けた腕の骨にひびが入ったのかミシリと音がする。


だがそこまでだ。折れるほどではなかった。

逆に杖は鋼鉄よりも丈夫なのか、決して折れずに振りぬかれた。


巨体をもつゴブリンキングによるスイングを受けた俺の体は、ボールを飛ばすかのように勢いよく高く吹っ飛んでいく。


「クッ」


軽く木の高さを超えていく自分の体を見てもできることはない。

体重を重くするスキルなんて作る気もないし、これからもない。


飛ばされている中、腕を確認すると真っ赤になっていた。やつの攻撃はスキル《堅固Ⅱ》を抜きやがった。

さすが得体を持つゴブリンキングだな。チーフゴブリンとは違う。


あいつもう最初からそれやればよかっただろう。わざわざ魔法使う必要あったのか。

いや地上だったらあんな大振り絶対に避けていたな。受けるにしてもゴブリンチーフにしたように受け流しながらだ。


あー。最初にほどちゃんに無理にでもスキル聞いておけばよかった。

そうすりゃこんな結果にはならなかっただろう。最初の《風天》? なんて、分かっていればめっちゃ簡単に避けれたし。


あれがあいつの必殺コンボなんだろうな。見えない魔法攻撃によって相手を宙に浮かせて避けられないようにしてからの、槍投げによる串刺し。

大した防具もないゴブリン族の中では初見殺しであり最強コンボだったのだ。


やられたわ。

まぁいいか。あれがあいつの最大火力なら正面から戦って大丈夫だろう。わかっていれば全部見切れるしな。





体が森の中へと落ちていく。体全身を強化して傷つかないようにする。


枝に軽く引っかかれながら着地して、戻ろうとすると、何か違和感があった。

なんだ? 先ほどの怪我だろうか。


腕を見ても先ほどの攻撃により受けたダメージ以外は異常はない。いや、体に何かある?


見ると、うっすらとした糸が全身に引っかかっていた。おそらくよく見なければ気づかなかっただろう。

蜘蛛の糸だろうか? 空から落ちた時に引っかかったのか?


それにしてもこんなに違和感を感じることがあるか? 

だが、感じる空気は何かに狙われているような雰囲気を持っていた。


「これ、なんだ?」


念のために違和感を感じた原因について聞いてみることにしてみた。


「フォグスパイダーの糸です」


「フォグスパイダー?」


「ダンガール大森林の中央部に生息する魔物です。いつのまにか霧に飲まれたかのように獲物が死ぬことからそういわれています。」


「は?」


何だその物騒な魔物は。俺はそんなのに狙われているのか?

慌てて周囲を見るが、いつもの森以外何も見えない。


だが、糸を張っているということは近くにいる可能性は高いだろう。

中央部にいるであろうハイゴブリンに隷属されたゴブリンキングが来ており、同時に中央部にいるフォグスパイダーがここで糸を張っている。偶然じゃないだろう。


俺は息をひそめた。聴覚を最大限に使う。

木の葉のかすれる音、鳥の鳴き声、遠くで先ほどのゴブリンキングの叫び声が聞こえる。


待てども、敵と思しき音は聞こえない。

むこうも獲物が油断するのを待っているのだろう。


「…フォグスパイダーはどうやって狩りをしている?」

「フォグスパイダーの糸は接触することでわずかな睡眠ガスを発します。これにより弱ったところを背後から牙で奇襲します」


俺は思わず糸を見るが、その時に意識がくらりとする。唐突な眠気。


「う…」


体がふらりと前に倒れるが、気合で体を持ち直す。

だが、それでも眠気は来た。


俺は指をスキル《鋭利Ⅵ》で強化し、足を突き刺す。


「ぐっ」


歯を食いしばる。痛みで眠気が吹っ飛んだ。


その時、頭上のからわずかにがさりと音がした。聴覚がよくなければ聞こえないような違和感のような音。


そちらを向くと、多くの目のついたでかいバケモノ。

その巨大な白い牙が振り下ろされていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る