第25話 地産地消



周囲の目の半分がすでに敵の目で、半分冷たい目になっている。

このゴブリンども…。 おまえら養うのにどれだけ俺が苦労をしてると思ってるんだ。


じろりと睨みつけるが、どこ吹く風といったところだ。

ピクリと俺の眉が揺れる。ぐつぐつと怒りがわいてきた。


よし、あとで全員殴ろう。この生産された怒りを消費しなければならない。

ゴブリンによってもたらされた怒りはゴブリンで消費する。地産地消だ。


地方政治にも配慮しているのが俺の方針だ。これで地方からの人気はがっぽがっぽ。

政権は安定する。これですべて解決だ。


俺の脳内会議で恐怖政治が可決されたことを確認すると、目の前のゴブリンキングをみた。


「で、これは何の真似だ?」


「おめーには分不相応な配下だからな。おめーの配下を俺様の部下にしてやろう。何ならおめーも来るか?」


乗っ取り行為か。まぁそりゃそうだな。

しかしこいつ、結構話せるな。気が合うとかそう意味ではなくて、ある程度知っているというか。


色々話してみるか…。



そうだ。こいつはゴブリンキングなんだよな。更なる配下なんて必要なのか?

数が必要、ということは抗争か何かだろうか?


「なんでそんな数を集める。配下なら十分いるんじゃないか? ゴブリンキングなんだろう?」

「ほー。俺様をゴブリンキングとわかるか。 そうかそうか。」


と嬉しそうにニタニタ笑った。何がうれしいんだ?

もしかしてこいつメイジ系だといわれていたし、ゴブリンキングと認められなくてこいつも配下を治めるのに苦労してたんかね。


「答えろよ」

「ふん。おめーのような下等な奴にはわからんだろうが、これからエルフどもとの戦争が起きる。そのためには数がいるのだ。とにかく数を集める必要があるのだ。下等なゴブリンにはわからんだろうがな」

「ふーん」


ご丁寧に説明してくれた。そして下等ということを繰り返し言いやがった。誰が下等だ。

下等っていう方が下等なんだぞ。


それにしても戦争か。しかもエルフとの戦争。

やっぱゴブリンとエルフの仲は悪く、普段から戦争してるのかね。


いやこの世界のゴブリンはどんな奴にも喧嘩を売る切れたナイフだったな。じゃあ世界からの嫌われ者か。


ハイゴブリンになっても嫌われ者、そんなんなんだろうな。


「こっちはゴブリンのみで戦うのか? エルフって結構強いんだろう?」

「ぬははは。このビビり目が。エルフなんぞ簡単に殺せるのだ。こちらにはトロル共やオーク共も来るのだ。普段はウスノロだが、戦となればいい盾よ」


簡単に殺せるなら戦争とは呼ばないだろうし、トロルやオークにも頼ってるじゃねぇか。


しかし、そんだけの味方がいるなら勝てそうだな。

けど、こんな世界での戦争かぁ。俺だったら参加したくないね。


戦争の場合、一つ一つの戦闘が勝率99%の戦闘ばかりだといえ、その1%を引く可能性があるんだかあらな。



「で、お前はハイゴブリンの下っ端ってわけか」

「な! なぜわかった!」

「あ、やべ」


そういえばこいつがハイゴブリンだというのはほどちゃん経由だったな。

こいつはまだ話していなかった。


「下っ端ではない! 盟友だ」

「なるほど、そう洗脳されていると」

「違う!」


いやけど、ほどちゃん隷属状態って言ってるからな。


「ぬぬ、お前さっきから生意気だ! 配下にしてやろうと思ったが、お前は殺す! 決闘だ! 」


周囲に張り上げるように宣言したゴブリンキングは杖を高々と上げる。

ゴブリン達は決闘の場所を開けるように広がった。


「まぁ、結局そうなるよな」

「ふん。身の程を知るがいい」


すると、目の端にゴブリンの死体が見えた。あいつは俺が防備を任せていた中で一番強かったやつだ。


拠点にいたゴブリン達が従っているのはあれが原因か。やつとの決闘で勝ったのだろう。

まぁ、普通のゴブリンがゴブリンキングに勝てるわけないし、今までさんざん下克上をやってきたやつでもあるからそれはいい。


だがあの死体は何だ? あの状態はどう見てもおかしい。

穴だらけ? 何回も貫かれたような跡がある。 


このゴブリンキング、槍でも持っていたか? いやあの死体、土が入っているのか?




ゴブリンキングを見ると、あいつは杖を構えたところだった。

あの杖、そういえばちょっと作りがゴブリンらしくないというか。


ゴブリンにあんなの作れるのか? 絶対に無理だよな。そういえば、ハイゴブリンに隷属状態…。そいつからもらったのか。


ほどちゃんに聞いてみるか。


「なぁ、あの杖って」

「《風天》!」


俺がほどちゃんに聞く前にゴブリンキングがそう叫ぶと、杖の先についている石がきらりと光った。そして何かが足元をよぎった感覚がする。


「ん?」


何だ? と下を見ると、唐突に強大な風が上へと吹き、体が浮く。

そして俺の体は地上から10m以上の上まで吹っ飛んでいた。


「な!」


空中まで吹っ飛んだ俺に再びゴブリンキングが叫ぶ。


「《地槍》!」


大地から細い土でできた槍が生えてきた。

やばい、あれはファンタジーでよくあるアースランス! あそこから槍が勢いよく飛び出て敵を攻撃する魔法だ!


槍が吹っ飛んでくると思い、とっさに構えたが槍は出ただけで吹っ飛んでは来なかった。

その代わりゴブリンキングが素早くその槍へと近づき、ボキリと折ってこちらへと槍投げをした。


「おまえが投げるんかい!」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る