第17話 それは流儀に反する
「ふん!」
俺の正面からのエセ正拳突きにゴブリンAが吹っ飛んでいった。
「グギャ…」
痛そうにしている姿が見えるが一応は手加減している。というかやっぱ体重が軽いからか打撃はそんなダメージないな。どんなにうまく突いても打撃だと軽いから足が滑るんだよなぁ。
スキル選びで《格闘》を選ばずに《鋭利》選んどいて正解だったわ。
手加減しているとはいえ、ゴブリンにこれなら他のモンスターを狩るなんてとても無理だ。
「ほら、とっとと次来いよ」
俺は残りの配下ゴブリン達を睨みつけた。配下ゴブリンたちは震えていた。
震えるくらいならおとなしく従えばいいのに。
何でこうなったかは敵ゴブ偵察からの帰り道にさかのぼる。
「ほどちゃん、なんでこいつら俺にこんな不満抱いてるの?」
俺は事情を聞いてみることにした。明らかにゴブリンたちは俺に不満を抱いていたが、その理由がわからない。
正直ゴブリンの生態に関しては知らないことのほうがまだ多い。まだしばらくはゴブリンでいるのだろうから、気になることがあったら聞いておいたほうがいいだろう。理解不能の状態は避けられるなら避けたほうがいい。
というか、ゴブリンの言葉ももうちょっと聞けるようになっておいたほうがいいのだろうけれど。
まぁ、さすがにそこまでは興味がわかない。
「推察するに、ゴブリンはゴブリン同士の個の力をある程度推し量れます。そしてゴブリンは正面からの戦闘が何よりも好きな種族です。よって相手のチーフゴブリンよりも強いマスターが、正面からの戦闘を避けたことにより、臆病もしくは卑怯と思われた可能性があります」
ふむ。まぁ確かに人数が多いからと正面からの戦闘は避けたしなぁ。それが臆病と思われたわけか。
「けどそれ慎重≒臆病ってこと?」
「ゴブリンが慎重という言葉を理解できるか不明です」
「おう・・・」
正面からの戦いを避ける≒臆病とされてそうだ。ゴブリンの文化ならそうなるのか
…今までの戦闘も基本こいつらを正面に立たせることはなかったが、それも気に食わなかったのだろうか。
いや、あれは俺自体は正面に立っていた。だからその部分では認められていたのかもしれない。
「正面から当たれるってそんなに大事かね」
「経験則的に、ゴブリンたちにとって正面から当たるものがリーダーとして好まれやすい傾向があります。その場合はゴブリンたちにも攻撃のチャンスが平等に与えられる、つまりはレベル上昇のための経験値にあずかりやすいものと推察します。からめ手を好む場合は配下のゴブリン自体を囮にする傾向があるために、リーダーとしては認められにくい可能性があります」
ウーム… 確かに今日のゴブリンチーフワーグライダーとかは正面から戦っていたが、若干ゴブリンを囮にしている節もあった。実際あのイノシシ狩るのに何人も死んでるしな。
それに対して俺はむしろ自分を囮にしている。そして彼らはそちらのほうがレベルは上げやすい。これは俺がその方が戦いやすいからだが、結果的にはそうなっている。
つまりは俺のことを正面から戦うリーダーとして認めつつも、それが他のゴブリン、今回の敵ゴブに対しては正面衝突という定番通りの行動をしなかったために、あの中途半端な不満表明につながったのかね。
ふーむ。
うむ。
面倒だ。わざわざそんな感情に付き合う必要もない。
俺は別にゴブリン達に認められるために生まれたわけでもないしな。勝手にやってくれって感じだ。
とはいえ、今後のためにあのゴブリンチーフは正面から完膚なきまでに倒す必要が出てきたな。そうしないとあの集落のゴブリン達から認められなさそうだ。
俺がゴブリンキングになるためには配下が必要なわけだし。
とりあえず、戻ったら一旦様子見て、隙あらばボコるか。それで俺についてこれないならそれでもいい。
そんなことを考えつつも拠点に戻って指示を出していたら従わないばかりか、舐めた態度で突っついてくる奴が出てきたわけだ。
よって予定通りボコることにした。今まで俺の経験値、甘い汁を吸っていながら、それでちょっと気に食わなかったら不満を示し、あまつさえ舐めた態度をとるなんて虫が良すぎる。
これを認めることは俺の流儀に反する。よって制裁を下す。
だが、相手がゴブリンであるということは考慮しよう。つまりはボコボコにするというわけだ。
「グギャギャ…」
最後のゴブリンEが半泣きで突っ込んできてぶっ飛ばしたのちに、次のことを考える。
「とりあえず、魔素量を上昇させるために進化するか」
そののちに、あの敵ゴブの集落をとる。
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