第14話 時代はブラチンからハミチンへ
「ふん!」
手をまっすぐにして硬直させながら突き刺すと、分厚い皮を貫いて生々しい肉の感触があった。
「グギャッ」
突き刺されたのは緑色の毛皮を持つ体長2.5mほどの狼だ。
正式名称はダンガールスモールフォレストウルフらしい。そのまんまやな。フォレストウルフでいいや。
首に突き刺さした手をすばやく抜いて、攻撃の硬直を狙ってきた別の狼の攻撃をふわりと横に避けた。
攻撃を受けたフォレストウルフは呼吸ができなくなったのか、苦しそうにもがきながら倒れた。
今は10匹程度のフォレストウルフと戦っている最中だ。
「ゴブリンソルジャー達! 投げ続けろよ!」
木の上で待機している他のゴブリンソルジャーたちは、手に持った小石を投げ続けてフォレストウルフたちの気を引き付けている。
フォレストウルフは木登りもできるが、ゴブリンソルジャーたちがうまくそれらを回避しながら撃ち落としていた。
その間に俺は他の狼達に素早く近づいて、その首に向かって流れるように手刀をかましていた。
フォレストウルフは、普段はリーダー個体に統率されながらゴブリンたちの攻撃をかわしつつ数を減らしていく集団だ。
突撃ばかりのゴブリンはゴブリンのリーダーも基本的に突撃攻撃しかしないので、というかリーダーが積極的に突撃するので、フォレストウルフ達は簡単に対応できた。
だが、通常とは明らかに違う速度で動く俺がいたり、それを囮にして木の上から投石攻撃を仕掛けてくるなど、およそゴブリンらしからぬ攻撃を仕掛けてくる俺たちに対して、フォレストウルフはなすすべもなく数を減らしていく。
俺が一度手をふるうたびにフォレストウルフが散っていく。そんな自分が作り出した光景を見て、若干の興奮を覚えた。
…やばいな。《狂乱》スキルに経験値振られないか不安だ。
いかんいかんと、気を引き締めて作業を続けていく。
「やっぱこのスキルで正解だったな」
あれから数日たった。
最初は楽してレベルアップするためにタイタニアカオスデミアースドラゴンアースワームなんていう名前糞長ワームの幼体を倒そうとしていたのだが、その居場所を探すにも途中で襲ってくる奴が多すぎて方針を変えざるを得なくなった。
ひとまずはある程度のやつを倒せるようにならなければならない。
そこで悩んだのが仲間を強化するか、自身を強化するかだ。
だが、その悩みは進化が解決した。
ゴブリンたちはゴブリンソルジャーに進化し、俺はゴブリンリーダーに進化したことで、配下のゴブリンたちの能力が上昇したのだ。
ならばと俺は自分の強化をすることにした。
それで習得したスキルが、《鋭利》だ。
最初は石を強化する《投石》や石の刃みたいなのを自前で作ってそれに《風刃》をつけようかと思ったが、《頑強》によって丈夫になった体を用いるのが一番いいと思ったのだ。
石や道具を用いたら、それが壊れた時に面倒だからな。俺の体なら早々壊れることはない。
《格闘》はひとまずやめておいた。その理由は後程説明する。
それで、兼ねてより切るものが欲しいと思ったので、爪を鋭利にする《鋭利》を選んだわけだ。
強化していけば、手全体や腕全体も《鋭利》のスキルを適応できるらしい。
いずれは心臓もうまく抜けるかもしれない。
それでいくらかの魔物を狩って、装備も更新した。
まぁ、装備と言っても、毛皮を剥いでそれを体に巻き付けただけだが。
おかげでふとした時にふわりと股間に風が入る。
もうブラチンの野生の獣の時代は終わったのだ。これからはハミチンの野生児の時代だよ。
どっちにしろゴブリンなのは変わらんし、まだまだ野性味あふれることに変わりないのだが。
そんなことを語っている間に狼たちはすべて倒し終わった。
「ふぅ。 降りてきていいぞ」
俺はそういいながら、オオカミの中で状態のいいのを探す。持って帰って食べるのだ。
他のゴブリン達も慣れてきたのか、オオカミの中で持ち帰るものを探していた。
狼の肉は正直あんましおいしくないが、通常のゴブリンでも持ち運べるくらいの大きさなので血抜きも手で吊り下げてできるし、火もつけれるようになったしな。
え? 火はどうやってつけているんだって? もちろん手動だよ。
摩擦熱で何とかしてる。パワーイズファイアーだ。
魔法だったらよかったんだが、生成系の魔法である火を生成する魔法は非常にコストが重く、スキル化したらとんでもないことになると思ってやめている。
まぁ、火は別に戦闘中に使うこともないから、手動でも問題ない。
「う…」
全身から血を抜いたような虚脱感。スキルが上昇したか。前回以上の魔素が吸われているのを感じる。
「スキルが上昇し、《鋭利Ⅲ》に昇格しました」
ほどちゃんが告げる。
「そうか…」
魔素が足りなくなってきている。次の次くらいには、スキル上昇時に倒れるかもしれない。スキル使用時にも使うし、こんな森の中で倒れたら終わりなんよな。
そろそろ進化しないとまずいかもな…。
次の進化は、と考えているとがさがさと音がした。
近くのゴブリンソルジャーたちじゃない。別のところからだ。
そして聞きなれた喚き声。
「ゲキャゲキャ」
「グキャ?」
「ゲキャゲキャゲキャ」
向いた先には別のゴブリンたちの集団がこちらへと迫っていた。
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