第9話 もう何も怖くない。

何回かほかの木に突進したのち、ダンガールスモールボアが勢いをつけて、俺が登っている木に突撃してきた。


俺は木に接触する直前に、ボアの頭めがけて降りる。


こんな高いところから落ちたことはないが、意外にもあまり恐怖はなかった。体が次に動かすことがわかっていたかのように動く。

俺は不安定なダンガールスモールボアの頭にふわりと乗ると、その目に枝を突き刺した。


「ブフォオオオオオオオオ!!!!!!」


野太い絶叫が響く。


ダンガールスモールボアは痛みのあまり頭を左右に振りあばれ、そして体を斜めにしながら走り出した。


体が傾き、思わず落ちそうになるが、必死にボアの毛と枝をつかむ。


さらに枝が目の中に食い込んだのか、ダンガールスモールボアの走りの勢いがさらに増した。


気づけば俺の目の前に迫る木が見える。ちょうど俺だけが当たるコース。


「くっ!」


俺は焦りながらもボアから離れ、受け身を取りながら着地した。

俺は先ほどの一連の自分の動きを振り返ると戦闘の最中なのに、それを思わず忘れるほどに感動した。


この体、やべぇ!


初めて頑強スキルのすごさを実感した。

今思えば、俺は木に登ったことは数回しかなく、受け身の練習もしたことがないのに、抵抗なく動いた。


前世で大した運動能力はなく、練習もなしにこんな動きできるわけがない。とっさにできるのは本能と言えるほどに反復した行動のみだ。


それでもできるのはスキル《頑強》のおかげか。


俺は全能感がわいてくるのを感じた。今なら何でもできるかもしれない。もう何も怖くない。


ダンガールスモールボアを見ると、目に突き刺さった枝を取ろうとして折ってしまっていた。

そして取れないとみると、こちらを振り返り睨みつけて突進してきた。


俺はその突進をよけながら、そこら辺の木々を蹴りながら駆け上がり、その先にあった枝を折って着地する。


そしてすぐに飛び上がってダンガールスモールボアの後ろに着地し、先ほど枝を突き刺した反対の目に枝を向ける。


ダンガールスモールボアはそれをよけようとするが、動体視力がいいからかその避け先を見て枝を突き刺した。


血が噴き出て、更なる悲鳴が森に響いた。俺は飛んで離れたところに着地した。


「だけどこれだけでは死なんよな…」


痛みで暴れるだろうが、心臓などの重要器官に傷はつけてない。失神はあるかもしれないが、死ぬことはなさそうだ。


どうするか…。


悩んでいると、上から折れた枝を持ったゴブリンたちが下りてきて、何度もダンガールスモールボアに突き刺した。


ダンガールスモールボアは暴れるが、それをうまいこと避けては刺していく。


脂肪が厚く、枝はもろいために浅い傷しかつかないと思われたが、意外にもダメージを与えていた。ゴブリン達は何回も繰り返して着実にダメージを与えていく。


「ああ、俺の真似をしてるのか」


「はい」


「しかし、えぐいな。一思いになんてのは中々できないか」


ボアの全身が血だらけとなっていく。毛じゃなくて血が生えているようだ。

まぁけど人間じゃあるまいし、野生の狩りなんてこんなもんか…。


やがて、ダンガールスモールボアは血を流しすぎたのか、倒れた。まだ息があるが、やがて死ぬだろう。


「そういえば、ゴブリンCはどうなった?」


探すとゴブリンCは気絶したままだった。体を起こしても起きない。


「大丈夫なのかこれ?」


「呼吸あり、重症は確認できず」


「当たり所よかったのかね」


とりあえず、このままここにいるのはよくない。血の匂いにほかのやつらが寄ってくるかもしれないしな。しかし、このイノシシどうするか?


その時、何か天から降りてくるのを感じた。


「レベル上昇を確認しました」


「お? いいね」


そういやレベル上げ目的だったな。あの名前がくそ長いミミズを狩る予定だったが、途中でこんなのに当たってしまった。


レベルアップの効果の確認は後でするか。


「運べるかな? どう見てもこの巨体を運ぶのは無理そうだが、チートありの俺の体なら…」


イノシシからゴブリンたちを離れさせて、ひっくり返して後ろ脚を持つ。大きさ的に腕の幅ギリギリで持ちにくいが、何とか持っていけそうだ。


とりあえず、持って帰ろう。この肉の塊、置いていくのはもったいない気がする。

途中で何かに襲われたら置いてけばいいだろう。向こうもゴブリンよりかはイノシシを取るはず。


ゴブリンCはイノシシの上にでも乗っけとくか。


「よし、戻るぞ」


「ギギャギャ」


ゴブリンたちはイノシシの後ろを押し出した。なんだ、かわいいところもあるじゃないか。

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