第10話 やってることはトンビと一緒

「ふぅふぅ」


「「「ギギャァ…」」」


ずるずるとイノシシを引きずりながら森の中を進んでいく。イノシシからは血が少しずつ流れてハエがたかっていた。


もう結構な距離を歩いてきた。道はあってるはずなんだが、重いものを背負っていると来た道が遠くに感じる。

さすがに疲れてきた。この体は瞬発力はあるけれど、持久力がまだまだだな…。


遠くから鳥の鳴き声が聞こえてきて、イノシシにたかるハエが目の前を横切る。


ああ、いかん。いったん休憩しよう。


ちょうど森の開けた位置にたどり着いて俺はイノシシを下した。

後ろからゴブリンたちの鳴き声が聞こえた。


「ああ、みんな止まっていいぞ」


ゴブリンたちはやはり疲れていたのか、その場にへたり込むように4人で仲良く固まって座って休んだ。


後ろの巨大なイノシシを見る。巨大、巨大だ。


あの時は勢いで持ってくることを選択したが、これ本当に必要なんだろうか? でかいし、絶対に食べきれない。


勢いあまってもう何も怖くないとか明らかな死亡フラグのセリフを言っていた時の判断だ。信用できねぇ。


それに今思えば、血抜きもできないし、焼くこともできないから生で血だらけの肉を食べることになる。


ゴブリンとしては正しいのかもしれないけれど、俺は食いたくないぞ。

血だらけの肉とかめちゃくちゃまずそうだし…。


けど、虫みたく案外うまいのかもしれない。ゴブリンになって味覚も変わってるしな。


ゴブリンたちを見ると、疲れながらもよだれがたれそうな表情でイノシシを見ていた。今にも食いつきそうだ。だが、俺が食べないから食べていないのだろう。


ゴブリン的にはあいつらが正しいんだろうなぁ。

どうするか。


そんな風にぼうっと考えながら、イノシシの背にいるゴブリンCをみた。

そういえば先ほどの怪我は大丈夫かなと様子を見ると、ゴブリンCはこちらをちらっとみて、慌てて目を閉じて寝始めた。


「こいつ…」


寝たふりしてやがる。周囲が重たいもの運んでて大変そうだからって、そんなこと覚えやがって。

起きたのなら手伝いやがれ…。


天罰を下してやろう。


と考えていると、太陽の光が不自然にさえぎられた。


「ん? なんだ?」


森の開けた位置にいるので風に木が揺れて影が動いたわけじゃない。


不審に思って上を見ると、何かが速い速度でこちらに迫っているのが見えた。でかい。


「やばい! 離れろ!」


ゴブリンたちは疲れていて俺の言ったことに反応できずその場でぼうっと見ていた。

そしてその何かはイノシシをわしづかみして、また空へと飛んでいった。


今のはグリフォン!


正確には見えなかったがフォルムは明らかにグリフォンだった。

体は明らかにダンガールスモールボアより大きく、たぶん象くらいの大きさはある。


しかしファンタジーグリフォン、やってることはトンビと一緒じゃねぇか! 何のための巨体だ、自分で狩れよ!



「ゲギャアアアアア!」 


あ、ゴブリンC、巻き込まれてる。天罰とか言ったら本当に天からなんか降ってきた。


ゴブリンCは慌てて空を飛んでるイノシシからはい出て抜け出して落ちた。


「ギャ、ギャアアアアア!」


だが、落ちるまでにどれくらいの高さを飛んでいるのか気づいていなかったのか、今度はその高さで悲鳴の声を上げている。


「「ゲギャギャギャギャ!!」」


そしてほかのゴブリンたちはその光景を見て笑ってた。さすがゴブリン。予想から外れない畜生さ。


俺も実は笑いそうになったが、さすがに不憫だと思ったので助けることにした。

すぐに走り出して木を駆け上って森の上まで飛び上がり、落ちるゴブリンC をキャッチし、その後回転しながら勢いを殺して着地する。


「ギャ、ギャギャア」


ゴブリンCが半泣きになって、震えていた。


「怠けるとああなるぞっていう天からの警告だな」


そんなわけないが適当に教訓として言いくるめとこう。そのほうがゴブリンCのためだ。



ゴブリンたちのもとに戻って、先ほどまであったもののことを考える。

ぽっかりと心があくという表現があるが、本当にさっきまであった肉がなくなるとさっきまであった空間がぽっかりとあく。


取られちまったなぁ。俺たちが狩ったダンガールスモールボア。

あれだけ必死に引っ張て来たのに徒労に終わってしまった。


あの肉はちょっと食ってみたかったが。どんな味だったのだろう。

肉のことを思い浮かべると、血みどろの生肉にハエがたかっていた姿が思い浮かんでしまった。


まぁいいか。血みどろの生肉はちょっとってしり込みもしてたしな。


守り切れないような過ぎたものを持てば取られるってことだな。

処分にも困ってたし、むしろもっと強大なものが襲ってきて大きな怪我とかが出なくてよかったよ。


そう思おう。

俺はため息をついた。



…帰るか。とりあえず。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る