第8話 何事にも例外はあります。


俺たちは森の中をひっそりと歩いていた。


正直、森の中は歩きたくない。危険がいっぱいだからな。最弱種族のゴブリンにとって森は危険だらけだ。そこら中に格上がいるのだから。


「ギギ」


だが、そんなことも言ってもいられない。あの場で安全に生きてたところで、必ずそのうちイレギュラーがやってきて俺たちを殺しに来るだろう。


だったら、行動できるうちにレベルを上げて進化するべきだろう。

狩りやすいといわれるあの何たらアースワームを倒してな。ただ、ちょっと遠そうだが。


「ギギャ?」

「ギギ!」


俺は後ろを睨みつけた。


「おい、静かにしろよ」

「ギャギャギャ」


睨みつけたところで変わらないので、そこらへんで見つけた棒でたたいて調教する。マジでこいつら言ったこと守らん。


そうすると黙るのだが、またしばらくすると騒ぎ出した。

いや本当に勘弁してくれよ。敵に見つかったらどうするんだ。


まだ早かったかなぁ。けど、どうせ大人になったところでこの習性変わらんだろうし。

どちらにせよギャンブルか。


初めて入る森だから仕方がないのかもしれない。今までは平原と森の間らへんで過ごしていたし、入ろうとしていた場合はすぐに連れ戻していたしな。


目新しいのか、ゴブリンたちはあちらこちらを見ては触りながら歩いている。そんなことをしながらも俺にはついてきているのだが。


いったん戻るか? それもいいかもしれない。

もうちょっと慣れさせてからでもいいかもな。


そう思っていると目の前で何かがもぞもぞ動いた。

草木で隠れていたので、目の前まで来るまでそれがいるのに気づかなかったのだ。


寝ていたらしいそいつは、ごわごわした黒い体毛が生えた体を起こすとゴブリンの倍くらいの巨体を持ち、顔についているクリっとした目をこちらに向けていた。


イノシシだ。


「なに、あれ?」


「ダンガールスモールボア。草食で、攻撃性は低く、逃げれば追ってはきません」


俺はわずかに後ろに下がりながら小声で聞いた。


「スモールなのこれ? 体高2mはありそうだけど?」


「上位種であるダンガールボアは体高3~4mほどのイノシシです。」


「乙事主じゃねぇか」


何から何まででかすぎんだよ、この世界は。



そう思いながら俺はすりすりと下がる。さすがにこれを正面から狩ろうとは思わん。体の大きさは力だ。技を競う格闘技が体重別に分かれているのはそうじゃないと不公平だからだ。



「そういえば、ゴブリンたち突っ込まないな」


「ゴブリンは基本上位者の行動に従います。よってあなたが突っ込まない限り、他のゴブリンも突っ込みません。ただ」


ほどちゃんがそういうと同時に、ゴブリンAの様子がおかしくなった。


「ギギャァァァッァ!」


奇怪な声を上げながら、ダンガールスモールボアに向けて走り出した。


「何事にも例外はあります」


「まて!」


自身の叫び声で聞こえなかったのか、ゴブリンAは殴りかかろうとして、


「ブフォ!」


ダンガールスモールボアの顔の一振りでゴブリンの体が吹っ飛んだ。


「ゴブリンA-----!!!!!」


「いいえ。あれはゴブリンCです。」


「ゴブリンC-----!!!!!」


吹っ飛んだゴブリンCは木にぶつかって落下し動かなくなった。…死んでないよな。


ダンガールスモールボアは目が急に赤くなり、体全身から蒸気を発しだした。


「全員! 木の上に登れ!」


とっさに命令を出す。他のゴブリンも突っ込もうとしていたが、俺の命令が聞けたのか、各自それぞれの木に登り始めた。


さすがのゴブリンだ。普段から木登りめちゃくちゃしてたからな。普通はあんな速度では登れないだろう。


ちょうど登り切ったときに、ダンガールスモールボアが勢いよくぶつかってきた。木がゴムでできてるんじゃないかってくらいに揺れる。


折れることはなかったが、ミシリといやな音が振動とともに響いてくる。このままあのイノシシが何回もぶつかれば折れそうだ。


どうする? このままだとおられて俺もゴブリンCの二の舞だ。だが、降りても有効な手段はあるのか?


「ほどちゃん! あいつとゴブリンのキルレシオは?」


「30:1です」


「誰か男の人を呼んでくれ!」


「ゲギャギャ!」


「おまえじゃない!」


反応したゴブリン・・・多分Aがしょぼんとした。


くそ、どうする? やるにしても何かしらの手がかりが欲しい。攻略方法、攻略wikiが切実に欲しい。



「ほどちゃん! あいつの弱点は?!」


「目が弱点です。」


「目が弱点じゃない奴を教えてくれ!」


「はい。目が弱点じゃない種族は合わせて2420種あります。著名なのがゴーレム族であり」


「やっぱいい! キャンセル!」



どうする? 一か八かやるか? あの目に枝か何か突っ込むか?

明らかに難しいし、こんな戦法を試すのなんてばからしいと思いつつも何もしないわけにいかない。


つかまっている枝に生えている枝を折って、その折れ目をみる。確かにとがっている。これならいけるのか?


やるか! やるしかねぇ! スキル《頑強》を信じろ! 

神に祈れ。いやあの神はぶっ飛ばす!



ダンガールスモールボアは他のゴブリン達が登っている木にぶつかっていた。

あいつが次にこの木にぶつかったときがチャンスだ。いくぞ。





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