第3話 鑑定は程よくがいい。

「ゲギャ、ググ。(まじかよ、これ)」


発音がうまくできないが、とりあえずこんな感じでいっている。


今ゴブリン語を話しているのか? ゴブリン語教室なんて通った覚えがないが…。 いやそんなことはどうでもいい。


転生する前のことを思い出す。

いろいろと転生特典とかつけていたが…。


あの神、嘘をついたのか。あの最後の笑み、あれは俺をはめた時の笑みだ。


思えば、あまりに低姿勢すぎると思った。仮にも神なんだからもうちょっと尊厳とかあるだろうに。



俺は自分の手を見ると緑色のゴブリンの手が見えた。

畜生。なんでこんな、よりにもよってゴブリンっておかしいだろ。何故ゴブリンにしたんだ。


「おい神! 聞こえてるなら、俺を転生しなおせ!」


ゲキャゲキャと天に叫んでも返事はなかった。神が見ているとかそういうのもないらしい。神は見放した。


この調子なら、ひょっとして特典としてもらったチートも嘘なのか。俺が頼んだのは確か、鑑定と次元魔法、そして身体能力強化だったか。


あるかどうかはとりあえずやってみればいい。


「鑑定」


俺は川に向けてそう言った。

途端に頭の中が大量の情報で埋まり、頭痛を通り越して血の涙と鼻血が出てきた。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


やばいやばいやばいやばい! これ死ぬ!


「キャンセル! ストップ! 待て!」


ピタッと情報の洪水が止まった。ダウンロードのキャンセルボタンあってよかった。再ダウンロードはしないが。


「頭、いてぇ…。痛すぎる」


頭がガンガン痛い。鼻血も血涙もやばすぎる。呼吸でも頭が痛くなるし、風の音一つ一つに痛みが反応する。

この風泣いてるよ。


「これは使えない…。使えなさすぎる」


情報の洪水、しかもほとんどの情報は使えない。ぱっと思い出せるのは今の川のどこどこの座標の温度や配合率、ベクトルなど様々な大量の情報が含まれていた。そういった情報が単位は違うが例えるなら一mmごとに表示されている。


こんなん使えるか。俺が欲しい鑑定はこういうのじゃない。


「もうちょっと使いやすくならないのか? これじゃ全然使えん。程よく情報を教えてくれるものにしてほしいわ。」


だが、チート自体はあった。使い物にはならなかったが。一応の特典はついているらしい。

だがこれだと次元魔法にも罠があるかもしれない。


使えそうなのは身体能力強化だけか?

罠としてありうるのは、力が強すぎて何もできないとかだろうか?


茶碗もったら茶碗壊れますとか、走ろうと思ったら地を強く蹴りすぎて大地が粉砕されて前に進めないとかだったら最悪よな。


けど、ここの川にたどり着くまでの感覚は普通だった。だからそこまでの異常性はないと思うけど…。いやオンオフ式、ポジティブスキルだったらわからないな。



「情報を統合しますか?」


「は?」


唐突に声が聞こえた。


「情報を統合しますか? 本人の解釈をこちらで解釈し、情報を取捨選択後に提供します」


何の声だこれ? まさか神? いや言っている内容は神っぽくはない。


「誰だ?」


また脳内に情報が大量に流れてきそうな雰囲気がした。やばい。


「キャンセル!」


「情報を統合しますか?」


圧を感じる。なんというか、鑑定様って呼ばないとまずいオーラを感じるわ。大量の情報という凶器を俺に向けられてる。手を上げる以外に選択肢がない。


「…統合します」


「了解しました。統合処理を開始します。」


すると、頭の中でスキルが何か動いている気配がした。なんか部屋の片づけをしているような気配だ。


「…統合処理を完了しました。」


…終わった? なんかあっさり?


「え? 終わり? あ」


やばい、情報が流れる! と思ったが、その兆しはなく、情報は流れなかった。


「はい、統合処理は終了しました。」


「あ、終わったんだね」


沈黙が流れる。また、情報が流れるんじゃないのかと戦々恐々しながらの状況だ。だが質問をしないと始まらない。


「あの、君は何?」


「私は統合によって生成されたナビゲーター。今回の統合処理に従って、神級下位スキル《鑑定》の情報を統合、削減し、新たに生成されたスペースに仮人格を生成、活動を開始、継続しています。この人格は鑑定結果を使用者である「ケイ」に合わせて、情報を伝達することを目的としています。」


「ああ、なるほど」


なるほどね。なるほどね。よくわからんけど、なんか勝手に生まれたらしい。

ナビゲーターとか神級下位スキルとか、情報を削減とか結構気になる言葉が聞こえたけど、とりあえずそれは置いておこう。


「えーと、つまり君が今後は鑑定結果を伝えてくれるってこと?」


「はい」


そんなのあるんだな。あれか、イルカみたいなものか。

お前を消す方法とか言ったら消えちゃうのかな。


そんなのことできるんだったら最初からしてくれりゃよかったのに。

というかそもそもの問題はそこじゃない。


「鑑定結果、なんであんなのなの?」


あれは俺が求めていた鑑定じゃないんよ。


「あんなの? とは?」


「ほら、いろんな無駄な情報が大量に流れるものになっているし」


「先ほどの鑑定機能は、神等天界の住人が使うことを前提にしています。神の活動に用いられる情報としては、先ほどの情報精度が鑑定結果の最低精度となっています。」


つまり、人間じゃなくて超人しか使えない奴ってことか。


あの神クソ野郎…。何から何まで適当すぎんだろ。普通神用のを俺につけるか? いやけど、これは逆に言えば使えるようになるかもしれない。


「人間用の鑑定はないの?」


「ありますが、ゴブリン族には使えません」


「あ、はい」


そうだよね。俺、ゴブリンだもんね。ありがとう、君のおかげで俺がゴブリンって決定したよ。鳴いていいかな? ないてもゴブリンのグキャグキャしか出てこないか。


それでゴブリン用の鑑定ってなんだ? ひとまずは人間用のを聞いてみるか。


「人間用ってのはどういうの?」


「人間用の鑑定結果は、多くの人間の知識を参照し、情報の確度を《神の図書館》から算出し、鑑定レベルに応じて表示します」


「ふーむ。つまりは人間が知っていることを表示して、まだ誰も発見していないことはわからないってこと?」


「はい」


なるほど。鑑定は鑑定神って程じゃなさそうだ。鑑定領主ってレベルか?


あれ、鑑定レベルに応じて?


「それって、鑑定のレベルが低かったら鑑定結果が間違う可能性もあるってこと?」


「はい。」


つかえねぇー。間違ってるかもしれないんだったら鑑定の意味ないやん…。平民鑑定に格下げだ。


まぁ、鑑定したら情報偽装がされていると思えばいいのか? ポジティブすぎるか。詐欺師鑑定だな。


ゴブリン用の鑑定とか使い道なさそうだな。


「…君も間違えるの?」


「いいえ。私は神の図書館をそのまま参照しているので間違いません。ただし例外として《神の図書館》の情報が間違っている場合があります。」


そんなチラシの隅に書かれてそうなセリフやめてくれ。まぁけど《神の図書館》なんて御大層な名称のものが間違ってるなんてほぼほぼあり得ないとは思うが。


「《神の図書館》が間違うことあるの?」


「はい。神々の戦争の時に図書館の書き換えが戦場の一つになっていました。この時の情報の確度は最大で54%低下しました」


やば。神同士の戦争やることえげつねぇ。けど、神々の戦争なんてそうそう起こらんよな? え、この流れは現在戦争起こってる?


「今、神々の戦争は起きてる?」


「いいえ。最後に神々の戦争が発生してから1254年経過しています」


「そっか。よかった」


いや、神々の戦争とか万年単位くらいの頻度で起きてもらわんと困るんやが。まぁいいか。とりあえず、鑑定結果がある程度信用できることはわかった。これは鑑定神だな。


とりあえず鑑定に関してはある程度聞いたな。

いや、どちらかというと鑑定じゃなくてナビゲーターになっているが。


次はどうするか。ああ、お決まりのあれを行うとするか。何がいいかなぁ。


まぁけど親しみやすい方がいいよな。日本人としてもあり得そうな。

かっこいい英語の名前を付けるのはちょっとこっぱずかしい。


…そういえば、最初は『程よく教えてくれないか』という問いから生まれたんだったな。


「君の名前は《ほどちゃん》ね」


「《ほどちゃん》? 名前は必要ありませんが」


「俺の世界には、人格のある鑑定に名前をつけると幸運が舞い込むというジンクスがあるのさ」


大概のラノベではつけてたし、そしてその多くの結末はハッピーエンドだ。間違っていない。


「《ほどちゃん》、了解しました。私はほどちゃん」


うん。気に入ってくれたようで何より。


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