第2話 文明レベル下がるってどころじゃねぇぞ
血の匂い。
最初に感じたのは鉄と生臭さの合わさった匂いだった。
弓がはじけ、何かが飛ぶような音がした後に、バタンと倒れる音がした。
地を揺らすような馬の足音、肉を打つような打撲音、命が失いかける悲鳴、命を奪う嘲笑。
世界で初めて聞く音は、そんな到底平和な世界では聞けないような音で占められていた。
なんだ?
前に倒れている体を起こすと、そこは戦場だった。
凸凹している荒れた平原にところどころ茂みがあるような場所。
そして、ケンタウロスと思しき生き物が、平原を縦横無尽に駆けて、弓をひいて矢を放ったり、背丈ほどのあるこん棒を振り回していた。
攻撃されているのは緑色の生物、ゴブリンだった。ファンタジー世界でよく見るような濁った緑のような体、その上に土と地に汚れた何かしらの皮を巻いていた。体もそんな感じだ。
ケンタウロスが一つ動きを見せるたびに、ゴブリンが一匹、また一匹と死んでいく。ケンタウロス達は笑いながら殺していた。
これは狩りだ。先ほどは戦場といったが、それは間違いだった。
ここは狩場。一方的な生の奪い合いが行われる場所。なんで戦場なんて思ったんだろうか。
あまりの非現実感に、意識がぼうっとしたまま、そんなことを考えていた。
ケンタウロス達は何故ゴブリン達を殺しているのだろうか。
趣味? 正直、食うために彼らを狩っているとは思えない。美味しそうではないから。
そして俺は何でそんな場所にいるのだろうか?
…助けられているのか?
そうだ。ゴブリンと言えば物語では大概が敵役だ。人間を残虐に殺すことが多い。それ以上に雑魚敵として狩られることも多いが。
味方になることはあまりない。そしてケンタウロスはたびたび味方になることがある。そんな場所にいるということは助けられているから、だろうか。
何となくそう思い、俺はケンタウロスのほうへと向かった。向かおうとした。
だが体が強い痛みを訴えて動けなかった。そこで見えたのは緑色の腕。
殺されるゴブリンと同じ、血と土で汚れた緑の肌。
・・・?
なんでこんな色の肌をしている? これじゃ、ゴブリンと一緒の色だ。勘違いで殺されてしまう。早く拭わなくては。
だが、拭っても拭ってもその色は取れなかった。
そうこうしているうちに、ケンタウロスが近づいてきた。
「おやじー。これは殺さなくていいの?」
その若そうなケンタウロスが言った。俺はぼうっと見ていた。あまりにも信じられないことが多すぎた。
するとそのケンタウロスの奥からに、熟練の風格を持ったケンタウロスがきた。
「ん? ああ、そいつはまだ小さいからな、あんまし小さいゴブリンを殺しても経験値が入らなくて意味ないぞ。そういうのは生かしておいて、大きくなって経験値がおいしくなったら殺すんだ。ほら、習っただろう。」
「ふーん。こんぐらいは見逃すんだね。わかった」
そういいながらその若いケンタウロスは弓を弾き、後ろにいた別のゴブリンを殺していた。
「おまえ、ちゃんと大きくなって経験値になれよ」
若いケンタウロスはつぶやくようにそう言って離れていった。
ケンタウロスたちはひとしきり殺したのか、いくつかの小さなゴブリンだけを残し、去っていった。
「ギギャギャ…(なんだこれ…)」
「ギャ? (は?)」
言葉が話せない。
地煙が流れる。血の匂いと糞尿のにおいが鼻についた。
いや、まだ、まだ希望がある…。
俺は近くにある川に近づき水面をのぞく。するとそこには先ほど見たゴブリン顔が映っていた。
「ギャギャ…(嘘だろ…)」
文明レベル下がるどころか種族レベルが下がってんじゃねぇかこれ!!!!!!!
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