劣等種族から成り上がり! 経験値扱いされるゴブリン転生からの下克上。
サプライズ
ゴブリン編
新生編
第1話 詫びチートは悪意の塊。
「大変申し訳ございませんでした!」
目の前に、神が頭が見えた。正確には土下座して謝罪している神の姿が見える。
一見して誠実そうな姿だが、気配からはなんていうかノリで生きてそうな雰囲気がしていた。
神にも土下座文化があるんだなぁ。
神の土下座という一生に一度見れるかどうかの光景を見ながら、俺はぼうっと今現在の展開を思い出した。
覚えている限り、俺は仕事中に事故死した。確か、工事現場の足場が滑って落ちて死んだんだ。あれは見事な落下だった、今思い出してもそうだったといえる。
さすが死亡事故率上位の業界だよ。二度と就きたくないね。やっている人は尊敬する。
だが実際には、落下はしたものの死んでなかったのだ。骨を何本も負ったが、それでも死んでなかった。
だが、それを勘違いした現場担当の死神が魂を回収して天界へと持ってきてしまったらしい。
それで後々にミスに気づいた死神の上司である天界の神が謝罪しているというわけだ。
「で、元には戻せないんですか?」
「ええ、まぁ、そのですね」
今から戻せば、まだ生き返れそうではある。
「ん?」
「もうすでに、処理が終わってましてですね。」
「処理?」
「あなたの体の処理と、魂の処理です。いや、魂のほうは謝罪のために記憶は持ち越しにしたんですけど」
「体の処理って…。もう葬式終わっちゃってるってこと?」
心臓の音が聞こえてくる。いや肉体はないが、死んだという実感が少しずつ来ていた。
「まぁ、ありていに言えば、そうなりますね」
「ふざけんなぁぁぁ! 俺まだ死んでなかったんだぞ! まだ見たいアニメもあったし、読みたい漫画もあったんだよ!」
思わず思いが爆発してしまった。そんなのってありかよ。
「ひぃぃ! ごめんなさい! ごめんなさい! いやけど、そんぐらいだったら別に」
「ああん?」
俺は殺す気で睨みつけた。そんぐらいとか言いやがったなこいつ。機会があれば殺す。
「ひぃぃ!」
神は頭を床にこすりつけた。こすったところで俺の人生は元に戻らないが。
くそう。俺の人生終わったのかよ…。
「…どうにもできないのか?」
脅してもどうしようもないが、それでも一縷の望みにかけて聞いてみた。
「申し訳ございません。いやですが、今ちょうどですね。異世界転生特典というのがありまして」
「え? 異世界転生? それって、ファンタジー世界の?」
「そうです! ファンタジーのですよ!」
異世界転生。最近の漫画やアニメのトレンドとなっているテーマだ。
よくあるのが事故死した人間が異世界に転生し、神からもらったチートか努力チートで無双してハーレムを築くというものだ。
サブカル好きはみんなそんな展開に一度はあこがれただろう。
「ふーむ。」
けどなぁ。ああいうのって創作だから楽しめるわけで、実際には漫画もアニメもないし、飯もまずいしトイレは汚そうだよなぁ。
正直、文明レベル下げるってきついような。生活レベルを下げることさえ人間は忌避感を覚えるというのに、文明ごと下げるって結構厳しくないか?
「異世界って実際のところ、結構生きていくの厳しそうだよなぁ」
俺がため息をつきながらいうと、神は焦ったかのように言葉をまくしたてた。
「いえいえそんなことありませんよ! あなたもご存じの通りのような異世界転生ができます! それに今なら異世界転生特典キャンペーン中なので、チートで無双してウハウハ!なんてことも夢じゃないんです! この地球世界でしょぼい人生を送っていたあなたも、一躍台頭できるような人生も可能です! あなたなら名声や富を得て、すぐにその国のトップに躍り出て、女も選び放題なんてこともできるようになれるかもしれません! どうです? やってみませんか?」
「いやしょぼいってお前、反省しとらんだろ」
人の人生をしょぼいとか言うな。
そういうと神はまた平身低頭で土下座しだした。
俺はすでに神に対しての敬意はなく、敬語を使う気は失せていた。
なんというか若干怪しいセールス感がある。
しかし、確かに俺の人生はしょぼかった。大したことをやり遂げることはできず、何か人に誇れることはなく、だれかを幸福にするなんてこともできなかった。
勉強はそこそこだったが、そこそこではいい就職先を見つけることはできず、そして社会に入ってから求められるのは勉強ではなかった。勉強を頑張っていた俺は、社会に適応できなかった。
やり直し。リトライ。できるならやりたい。
本当は生きているうちにしたかった。けど、見渡せば見渡すほどにやってくる冷たい言葉に魂は冷えていった。
けどできるなら、できるならやりたい。やり直しを。異世界転生を。
「わかった。今なら異世界転生特典キャンペーンはあるっていうしな。 それに今回はそちらのところのミスで俺が死んだんだから、それに対しての特典か何かも欲しいけど。」
「詫びチートですか? いやけどそれって最近あんまし聞かないし…」
「は?」
睨みつけると神はいそいそと資料を取り出した。
「いや! ちょうどね! 詫びチート特典というのもあるんですよ! 今回はこれ! 異世界転生のお供とも呼べる次元魔法、これの素養をお付けしましょう! 極めれば収納魔法や転移魔法もお手の物! 無双チートロード間違いなし!」
「あるんじゃねぇか! じゃあそれを。」
怠け者なのかな、この神。とりあえず引っかかったところは指摘しないとまずいことになるのか? これ。 いやけど神だぞ。さすがにそんなことないか?
「あと鑑定もつけれる? それと身体能力強化とか、体が強くなるものをつけて転生したい」
転生したいというセリフを聞くと、神は不気味な笑みを浮かべた。あまりに不気味で俺は何かまずいことを言った気がした。
だが、もう遅い。
「ええ。ええ。ありますよ。それで転生特典としましょう! では、いってらっしゃい! いい来世を!」
神は手を掲げて、その腕に
「おい、ま」
俺の視界は暗くなっていった。
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「ふう。とりあえず、これでこちらのミスはもみ消せそうだな」
そうつぶやく彼からは先ほどの平身低頭した様はなかった。
彼は間違えたことによる誠意ある謝罪ではなく、自身のミスを隠すために別世界へと転生させたのだ。
彼にとって大事な査定があり、この査定に落ちれば、向こう一万年今の役職のままだ。それに彼は神ではなく、ただの平天使だった。神というのは勘違いだ。
「ふふ。転生先世界での種族を決めさせなかったのが決め手だったな。この空間だと俺も嘘をつけないから、なかなかに誘導が面倒だった。」
不正を防ぐために、上位神によって転生の間は嘘をつけない《誠実の誓い》が建てられていた。
「あいつはチートを得たと思っていただろうが、人間から雑魚種族にする代わりに得た力だ。特典でも何でもない。特典はむやみやたらにつけると上位神に見つかるからなぁ。プラマイゼロならごまかせる。それにあの種族だと《次元魔法の素養》は使いこなせないしすぐに死ぬだろうから、まず問題とはならないだろう。ごねられなくてよかった。ん?」
彼が先ほどの魂の状況を覗くと、まだ転生が始まっていなかった。
「ああ、普通の転生ポイントが余っていたか。それの確認処理がまだ終わっていなかったんだな。どうするかな。」
どうでもいい人間の転生とはいえ、もともとのポイントが余っているのは目立つか…。
「適当に長寿と、あと病気耐性とかでもつけとくか。どうせすぐに死ぬしな。あの種族はバカだし。」
そして、彼の転生処理が始まった。
「って、あれ、これって…」
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