Wan inept boy
「大変みたいだね。」
全く物音がしなかったものだから,完全に油断していた。いつの間にか,その男は立っていた。
「誰だよ,お前」
と聞くと,「せのたかいお兄さん」とでも呼んでくれ,と言われたので,絶対に言わないことにした。
「とにかく,君は今大変だ。そこで,私のお呪いを受けないか?」
「お呪い?」
確かに,今は困っていた。殺し屋としての仕事は終えたものの,いつもは上手くいく死体処理に手こずってしまっているのだ。
君にはそうだな,と男は少し悩む様子を見せる。男は二枚目の眼鏡で,何か不思議な雰囲気があった。
「自分が殺した者を,一番親密なもの以外,誰にも認知されず,忘れられることを条件に生き返らせる,と言うのはどうだ?」
「どうだ,と言われてもな」
「このお呪いは複雑で,いくつか副効果がある。まず,自分の所有物にも同じ効果がつくこと。そして,時間を超えるとバグが発生すること。さらに,人生で1番ショックだった1時間を忘れることだ。」
「バグってなんだ?」
「まあ,能力の効果がランダムに一つ消える程度だ。」
なかなか面倒そうだった。が,こんな状況では受けるしかない。
別れ際に,男は
「代わりに,君には試練が訪れるが。」
と言ったが,意味を問い詰める前に男は消えていた。
ふと,初めてお呪いを使った日の夢を見ていた。今思えば,試練とは玲とのことだったのだとも考えられる。
あの,玲と最後に別れた日のことを思い出す。あの日の玲の推理は,ほとんど正解だった。だが,俺には玲を殺すつもりは,はなからなかった。
ただ玲とトンネルで犯人が来ないことを確かめて,あれはなんだったのだ,と話して終わろうと思っていただけだった。
が,玲はあの日,自殺をする覚悟でいた。もとはと言えば俺のせいだし,俺以外誰とも話せないとなれば,死んだほうがマシかもしれない。その決意を止めるのは,ただただ傲慢に感じ,最後まで止められなかった。
そもそも,俺が殺し屋なんてやらなければ良かったのではないか。と思うが,また借金のことが思い浮かぶ。一生をかけないと返せないような利子が溜まり,額を見るだけで絶望するような,父が唯一残したものだ。
携帯がなり,見てみると案の定,殺しの依頼だった。うんざりとしながらも,既に携帯のアプリを開き,画家の三水に電話をかけている。
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