Entrance

蘇生

〔碧〕

 誰かが窓を開ける。目が覚めると,暗い部屋にいた。俺は,布団をめくっている。

「おはよう」

 目の前の,背の高い男が言った。部屋が暗いのと,男が帽子を被っているのもあり,顔をはよく見えなかった。とりあえず,俺も挨拶を返すことにする。

「おはよう」

 いや,おかしいよな?だってあれ即死の轢かれ方だったもんな

「碧生は私が蘇生した。」

 大の大人がファンタジックなことを言うのは,少なからず面白みがあった。

「いやいや,ファンタジーはフィクションですよ。FFですよ」

 と寝起きの脳を働かせて言ったが,怪訝な顔をされ,無視された。

「聞いたことはあるかもしれない。私のことは『せのたかいお兄さん』とでも読んでくれ」

 そういえば前に小道が,地震を起こす力は「せのたかいお兄さん」からもらった,と言っていた記憶がある。

「君には用があって蘇生した。」

「まあ,そうでしょうね。目的なく人を復活させるやつなんて,いやそもそも蘇生できる人なんて中々いませんから」

「単刀直入に依頼する。君には,『黒田 小道』を殺してほしい。」

 は?と間の抜けた声を出してしまう。

「さもなくば,お前の弟たちに怖いお呪いをかけることになる。」

「お,おまじない?」

「ああ。小道や,君の蘇生に使ったものだ。私には,人やものにお呪いをかける力がある。」

 と言うと,すぐ近くにあった壁に触れた。壁は青白く光り,映像が映し出される。蒼威,青藺,葵の3人が,それぞれ自殺するものだった。

「お前」

 発声しかけたところで,男が大きく声を出す。

「君に頼んだのは,君が特別な力を持っているのを知っているからだ。」

 そもそも,なぜ小道を殺そうとしているのか。憤りが腹に溜まり,今すぐ発散したいほど,不愉快だった。手が震える。

「彼女のあの力は,強すぎた。地震は,日本全体の脅威になり得るんだ。」

 本当に,胸糞が悪い。息も荒くなってくる。

「じゃあ,お前のそのおまじないでやればいいだろ」

 にしても,俺が止めるが。

「生憎,1人にかけられるお呪いは1つなんだ。」

 口が開かない。あまりの理不尽に,叫び出したい気分だった。

「とにかく,頼んだ。やらなければ,怖いお呪いだからな。」

 俺と小道が知り合いであると言うことは知らないのだろうか。一方的に用件だけ言うと,俺の目に手を伸ばす。手が離れ,明るさに目が驚く。周りは既に昼で,人通りもあった。そこは,部屋ではない。

 あの映像が,もう頭から離れない。あの後,彼女らはどうなったのだろうか。

 葵を思い出している。

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