小道
「あの,私さ,ちょっとだけ特別な力があるんだ」
聞くまでもなく,小道は打ち明けてくれた。
「おお?それはまたどんな」
「えっと,跳んで,着地すると地震が起きるってやつ」
「え,ちゃんと特殊な力だな」
でも,地震は災害でもあるから簡単には起こせないんだけどね,と小道は溢した。
「それって,先天的なやつか?」
「いや,後天的な。あの,『せのたかいお兄さん』にもらったんだ」
「『セノタカイオニイサン?』なんじゃそりゃ」
「わからないけど,そう呼べって」
自分の白昼夢とはなんら関係ないことがわかり,少しだけ肩を落とす。なら,本当に何なんだこれは。
どちらもしゃべる話題がなくなり,少し空気が気まずくなる。
「あ,そうだ。」
「な,何?碧生くん」
「俺はつくづく思うんだが,小道には『クロコ』というポジションは似合わないと思う」
「えっと,それは」
小道が言い淀む。
「だからさ,俺の大好きアナグラムで,入れ替えてみたんだ。」
「あ,私も,アナグラムは好き。やってて楽しいよね」
久しぶりの同志を見つけたような気分になる。
「それで,『ここる』なんてのはどうだ?」
「おお,でもそれは可愛いくて私には勿体無いよ」
俺はここで,最後の勇気を振り絞ることにした。どうせ,ここにいる時間も今日で最後だ。
「俺の好きな人が,可愛くないわけない」
少し声が小さくなってしまったが伝わっただろうか。あまりの恥ずかしさに,「あ,じゃあ俺はここだから」と全然違う曲がり角を曲がった。
父親が再婚し,引っ越すことになった。あそことは全く違う街,「宍向市」に住むことになり,2人の義弟と義妹と,暮らすことになった。
俺が携帯を持っていなかったこともあり,小道とはあれ以来音信不通になった。
途端に,視界が泡の海に包まれていく。
前に立つ女は,福引券を一枚,俺に手渡す。
「Fight with this」
とだけ言い,消える準備をする。こんなことなら,ずっと白昼夢のままでいいのにな。と思うが,現実はそう甘くない。
目の前の景色が,泡で隠れていく。
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