演技

「俺の知り合いに頼れそうな奴がいる」

と言ったのは,玲だ。今週の火曜日に,篠原たちに今度の月曜日にいじめる,と言われたので,水曜日の帰り道で玲に相談しているのだ。

「そいつは,まあ警官なんだが,俺と仲がいい。いじめについて相談したら乗ってくれるだろう」

「ただ,それだけじゃ足りないんじゃないか?」

「だから,演技するんだ」

演技か。保育園のお遊戯会に少し黒歴史があるので,あまり得意ではなかった。

「どんなだ?」

「多分,金曜日に俺たちが作戦を立てる噂を流せば,当然知りたいと思うだろう」

確かにな,としか言えない。

「だから,そこで嘘の作戦を流すんだ」

「例えば?」

「俺のカメラで,証拠の写真を撮る,というようなやつだ。」

そこで,頭に光るようにアイデアが走った。

「じゃあ,カメラを二個用意して一つは囮,もう一つは本命で証拠を撮るのはどうだ?」

玲は少し考えるようにして,少し表情を和らげた。

「それ,いいかもしれない。カメラは俺が一つ用意できる。あと一つ,どうするかだな」


その時だ。もう一度白昼夢を見たのは。景色が少しずつ溶け,合わさり,先程とは全く知らない景色になっている。

前には,やはり知らない男が立っている。スーツを着ていて,社会人のようだった。ただ,目は虚だ。

「Fight with this」

そう,低い声で呟いた。手にカメラを乗せ,こちらに差し出してくる。それを受け取ると,男は霞み,だんだんと消えていく。景色はしゅわしゅわと音を立て,前のものに戻っていった。


「大丈夫か,碧生!」

「ああ,大丈夫だ。あと,カメラの問題については今,解決した。」

カメラを差し出すと,玲はひどく驚いた。

「お前,どっから出した,そのカメラ」

「俺の右手はカメラでできているんだ」

「その割に碧生の右手はまだあるけどな」

「そこは気にしないでほしい」

俺と玲は潤った笑いを響かせた。

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