篠原

 腹に強い振動が見舞われる。続いて,指を思い切り踏まれる。指という細い部分に見合わない体重がかけられ,激痛が走った。

「残念だね!アイツも,お前を見捨てたよ」

「へえ,そうか。それで結局,君たちはいじめをすることで何を得たんだい?」

 その質問に篠原は答えず,代わりに手下が俺の鳩尾みぞおちを殴る。

「お前たちがやろうとしていた作戦も,簡単にバレてんだよ」

 篠原の手には,ぐちゃぐちゃに壊された玲のカメラがあった。バッテリーは結局意味をなさなかったようだ。カメラが空に放り投げられ,地面についてさらに壊れる音がした。ついでに,心も壊そうという魂胆だろうか。

「まだお前さ,自分の立場分かってないでしょ。ほんとにウザい」

 ごたごたと言っている割に,篠原は自分では手を下さない。ただ,それは普段ならの話だ。先程,散々挑発してしまったせいで自分の手も汚すようになった。いや,俺の肌を汚い手で汚すようになった。ちょっとまずいかなあ。どうしようか,玲に合わせる顔がない。

 その後も,篠原とその一味は狂ったように俺を殴り,蹴り,煽り,好き勝手にいじめた。

 ずっと殴ってちる方も痛そうには痛そうだが,絶対に俺の方が痛い。身体中がヒリヒリと痛み,冷えたような感覚になる。具合が悪くなるような痛さと,この状況で眩暈がした。その眩暈を訴えようとするが,言葉が出なかった。

 目だけを動かして,周りを確認する。助けを呼ぶには,絶望的だった。気が高い上に,少し小高いところの盆地のようになっていたので,さらに助けられる確率は低くなっていた。しかしそれは,そのまま何もしなかったら,の話だ。

 紺の制服を身に纏った男が見えた。男は太っていて,息が荒い。人は見た目ではなかった。

「お前たち,何をやっている?」

 確かに質問してはいるが,声が大きく,迫力もあったので篠原たちは動きを止めた。

「いじめは,立派な犯罪だぞ」

 いじめは立派ではないですけどね,と言えるものなら言いたかった。

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