不審
公園の方を見ると,明らかに怪しい男がいた。小太りで,黒すぎるサングラスをかけている。興奮したように,息が漏れていた。汗っかきなようで,よくハンカチで拭っている。目すらも脂で濁っていそうだ。
「なんか,めちゃくちゃ怪しげな男がいるな」
できるだけその男の方を見ないように努力をしながら,囁くように小道に言った。
「あ,たしかに」
小道の声も俺と同じく小さかったが,彼女の場合は普段から小さいので,こちらに合わせたとかではない。
時々,隣に置いてある黒いバックの方を気にしていた。
「あれ,盗撮してそうだなあ」
「えっと,『人格像を外見で確定させるのは愚かだ。しかし,印象にはいつも外見がつきまとう。』」
「どこかの心理学者?」
「いや,友達のお父さん」
本当にその人は一般人なのか,と問いたくなるほどの貫禄が,その言葉にはあった。
「あ,じゃあ私ここで」
変わらない小さい声で,小道が別れを告げる。というと,そういう関係を解消するという意味に聞こえるため,また明日会うことを約束した,とでも言っておこう。
「やめろよ」
勇気を出して,と言うか嫌気がさして,篠原を止めてみた。
「え,何?キモ」
言葉遣いが荒いなあ。特に言葉にもあまり強さを感じないし,何より軽くボケをかましたいと思った。
「用がないならあっちに行ってくんない?」
クラスの雰囲気がどんどんと冷たくなっていく。中にはこの暗い雰囲気から抜け出そうと,爽やかな中庭に向かうものもいた。
「こいつの味方するとか,頭でもおかしくなった?ほんとに,キモい」
小道が睨むように篠原を見る。それを見て,決意を固めた。
「いや,俺はレバーは嫌いだが。あのモサモサ感がちょっと苦手なんだよな」
「は?」
「それはキモじゃなくて肝」
と小道が小さく呟く声がする。
「それに,キモいは止めた方がいいぞ。『気持ちが悪い』の略か『気持ちがいい』の略称か分からない」
一気に,場の空気を冷ます。或いは少しだけ温度を上げる。篠原もこの空気の中,再開するのは気まずいのか,足早に教室を出て行った。
作戦成功だ。名付けて,「敢えて空気を冷ますことで気まずくする作戦」,AKSK作戦だ。代償に,俺の評価が少し悪くなる。
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