時計

〔青〕

 時計を見ると夜の8時を回っていた。より心が青く染まり、思わずため息が溢れる。ため息は楽になる。胸に溜まっている辛さを、吐き出して少し軽くなる。

もう一度大きく、息を吸う。段々と喉の奥が冷たくなり、ちくちくとした刺激が喉をつつく。そこで呼吸の吸にあたる動作を止める。

少しずつ、息を吐いていく。胸が軽くなり、

少しだけすっきりする。しかし時間が経つと

少し残った不安からまた大きく広がって、

少しの楽観すらも埋め尽くしていく。

窓を見ると、案の定母親が停車しているのが見えた。リビングのテーブル裏にあるボタンを押す。母親からの被害を最大限減らすため、碧生が開発したものだ。

夏休みをつぶし、

「これが俺の自由け、いや自由工作だ。」

と、夏休み初日の小学生を思わせるように輝く目で,彼はそう言った。同じような光量の中だったのに、彼の目は私より光っていた。

そういえば、碧生は発明が得意だったのだろうか。いや、いつだったか,

「ハワイで発明が得意なクラスメイトに教わったんだ。」

とも言っていた気がする。ハワイは嘘だろうが。

そして兄弟姉妹で全員同じ名前だから、渾名で呼び合おうと言い始めたのも、やはり碧生だ。

思い出さないようにしていたのに、碧生との思い出が蘇る。

まるで蓋を失った水筒をひっくり返すように、とめどなく水が涙と共に溢れていく。記憶の中で、碧生あおいが鮮明に動き出す。

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