懐疑


〔葵〕

 自分の目を疑った。疑心暗鬼、というわけではないが、間違いなく、「疑った」という表現が合っているだろう。なんにせよ、ずっと開かなかった金庫が開いたのだ。それはもう、驚きだ。しかも、開け方も信じられない。まさに奇跡的だった。

 適当に、と言っても科学で使われる方ではないが、とにかく雑に番号をがちゃがちゃと右へ左へといじると、金庫が「開いたよ」とでもいうように、刀を鞘に収めるような音がなる。

 自然に興奮し、頭の中に快感がほとばしる。深夜の少し前であることもあり、余計に興奮した。

 小説や漫画の中でしか見聞きしないが自分の左頬を抓ってみる。爪が食い込む鋭い痛みと、頬が伸びる鈍い痛みが左頬を満たし次は顎までターゲットにしそうだったから、急いで手を離した。まだ頬には痛みが残っている。少しずつ強い刺激が薄れていき、先程急いで手を離したのが嘘のようだった。

 

「ねぇ、青藺は一日の中で、どれが好き?」

話題に困っていて、少し空気が不味かったので自ら話題を振る事にした。

「どれって?」

青藺の声は綺麗で、周りの景色に溶け込むように、美しかった。しかし、周りの景色は美しい訳ではない。

「ほら、昼ーとか夜ーとか」

「じゃあ、夜かな。なんか、幻でも見てるみたいで」


と青藺が言っていたのを思い出す。その後、なんと話したのだったか。

 唐突に、部屋にシロフォンのような音が響いた。母の帰宅を知らせる音を出すため,リビングにあるボタンを押したのだ。青藺あおいが心に思い浮かぶ

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