Stay in daydreams

夢見

〔碧〕

目の前の景色が泡に包まれる。

 最近、白昼夢と呼ばれるものを見るようになった。いや、実際には違うかもしれない。というのも、その内容は大抵、知らない人からものを渡される、というものなのだが、目が覚めても、貰ったものを持っているからだ。危ないお薬を飲んだ覚えもないし、ストレスもそこまで溜まっていないと思う。そしてそれが今、実際に起きている。

「Fight with this」

 目の前の男がそう呟く。男も夢でも見ているかのようで、虚ろな目をして何か黒い、四角いものを渡してきた。よく見ると、カメラのバッテリーだった。

 周りの景色が、さらに周りの景色に溶けていくような錯覚に襲われる。吸い込まれる渦に男も混ざり、少しずつ姿が霞み、見えなくなっていく。軽い眩暈が体を襲い、思わず目を閉じる。目を開けると、カメラのバッテリーしか残っていなかった。

 あるとするならば、ピッチャーはライカ、キャッチャーはキャノンだろう。

 

 最近、気になる相手がいる。同じクラスの黒田くろだ 小道こみちという女子だ。いわゆる、恋とも呼べるのかもしれない。ただ彼女には一つ、問題があった。彼女は、いじめられているのだ。そしてこれも今、実際に起きている。ジャージが破られていた。破るのなら道場にして欲しいものだ。

「ねぇクロコ、破れてんじゃん。だいじょぶそ?」

 大丈夫ではないだろう。

 いじめ、というとなにか幼稚に聞こえるから、ここは悪趣味なストレス発散とでもしておく。その悪趣味な発散方法をしているのが、主にこの篠原しのはらだった。

 黒田 小道、略してクロコと「小道のように地味なやつにはぴったりだ」とかなんとか、話していた。

「だ、大丈夫です」

 小道がかろうじて、声を出す。篠原以外、誰も喋らない教室に、美しく、細い声が響いた。声もいいなあ。

 だが、その美しさがさらに篠村を苛立たせる。

「うるさい、クロコは喋んないで!」

 世間体も印象も全く気にしない、掠れたような声で篠原が叫ぶ。それは小道に対する怒りとも、自分に対する怒りとも取れた。

 自分でもそのことに気がついたのか、髪を掻きむしり、鼻を鳴らして教室を出て行った。

 それを機に、教室は先ほどまでの空気と打って変わって、ガヤガヤとし始めた。

 ちらちらと小道を窺う者はいても、実際に声をかける者は、誰もいなかった。しかし、俺以外、の話なので、「誰も」は嘘だ。

「今日さ、一緒に帰りませんか?」

どうだ、恋愛経験のない俺のありったけの勇気!これを食らって、断らなかった者は、

「え、いい、ですけど」

いる。

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