Earthquake

来訪

〔青〕


「今度の仕事でさ,」

夫はソファに寝転がり,テレビを見ながら言った。

 僕はジュースの原液を注ぐ手を止める。コップはそのジュース原液のパックを買ったものに付いてきた付録のようなもので,“こいめ” “うすめ”“おすすめ”の3番の線が引いてある。この線に合わせて液を注ぐ,というものだ。

 今回は濃いめの気分だったが,薄めで止めてしまった。微調整が面倒だ。

「あるアイドル,いや,歌い手なのかな?

とにかく,そういう人のコンサート警備につくことになったんだけどね」

純人すみとの職業は警備員で,何かのイベントの警備をするようだ。同じ人の警備をずっと行う訳ではなく,転々としている。

ただ,その一つ一つが大事なイベントで,本人によるとそれなりに活躍しているらしいからか,給料は一般より幾倍かは高い。

「そんな感じで仕事は大丈夫なのかい?」

「まあね。あぁ,それでさ。その人が,君も知ってると思う人なんだよ」「誰だろう」

斗南ほしなみ 九流ここるさん。ほら,知ってるでしょ」

「あぁ,蒼威の」

蒼威は今,斗南 九流のマネージャーを仕事としており,それなりに楽しそうだった。

蒼威は陽花が死んで,不謹慎だがそれこそ死んだようであったから,少し安心していた。

「チケット二枚貰ったから葵ちゃんと見に行ってきつつ,あーくんに挨拶してきたら?」

「いつのやつ?」

「9月30日,ちょうど30日後だよ。たしか日曜日だから,青藺も仕事休みでしょ?」

「そうだね。じゃあ,行ってこようかな」

スマホを開き,葵の連絡先を開く。と,同時に,玄関の外で階段を登る音がし,インターフォンが鳴る。純人の方が近かったので,立ち上がり,ドアを開ける。葵が「久しぶりー」と手を振った。

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