罠師
〔蒼〕
どんな仕掛けなの?と青藺に聞かれる。そういえばまだ説明していなかった。
「え、えと、まずドアの前に紐を仕掛けて、母の身長からけ、計算してちょうど転んだ先に大きめの石を置いとく、みたいなやつ」
やはり喋るのは苦手だ。どうしても緊張してしまい、言葉がつっかかってしまう。俗にいう「コミュ障」というやつだ。それに引き換え、青藺は寡黙ではあるが、言いたいことははきはきと喋れる。僕の理想だ。
と、そんなことを考える僕をよそに、「始めよう」と青藺が紐を持つ。
〔青〕
駐車場で息を潜めている。玄関で、母親がハイヒールを履く音が聞こえる。もうすぐ彼女が死ぬ。嬉しい、はずだ。母がドアを開ける。じっと耳を澄ました。少しずつ目を閉じる。段々といつも聞こえてこなかった音が,耳を膜のように包む。その中から、彼女の生活音を聞き分けることに集中する。
しかし、転んだ後は、聞こえない。何が起きたか,とおかしく思い、蒼威の方を見る。案の定驚いていた。2人で慎重に仕掛けを見に行く。糸が切れていた。
僕も、蒼威もやったのではないとすれば,誰がやったのか推測するのは、赤子を殺すより楽な作業だった。葵が頭の中に思い浮かぶ。
〔葵〕
金庫の中には、碧生の遺品が入っていた。本,お釣りが777円のレシート、懐かしのギリースーツまで。金庫中は大半がギリースーツで占領されており、そこまで多くは入っていなかった。だが、確かにそこには碧生が生きていた証拠が、記憶が確かにあった。
スーツのポケットの中を探る。後ろに誰かが立っているような気がして、罪悪感と少しの興奮を覚える。早く終わらせないと、と焦るが、焦っても仕方ないとも分かっている。中には、数枚の紙が入っていた。部屋の外では、蒼威が角に足をぶつけていた。痛そうだな。そう思うと、予想通り蒼威が小さくうめく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます