物語

〔蒼〕

 失敗した。「大丈夫?」

 まるで他人事のように青藺が聞いてくる。

「う、うん。たぶん。依頼もしたし、さ、最悪の場合この手でやる」「依頼?」

「うん。こ、殺し屋的な。でもそっちは望みが薄い」

「なんで?」

質問ばかりだ。

「数ヶ月前に依頼したけどまだ殺されてないから。それより、ゼラのこと考えなきゃ」「そうだね」

 紐はたぶん葵に切られた。次はもうない。

「こ、ここで殺せればよかったけど、もうこの手でやるしかない。コンビニから帰ったところを狙うよ」

 青藺を見ると、昔を思い出しているのか、弥明後日の方向を見ていた。青藺が小さく瞬きする。


〔青〕

「ねぇねぇイグサ。今度僕とイグサと蒼威の3人で遊びに行かない?」

 目をこれでもかと言うほど輝かせながら、陽花は言った。

「いいよ。どこ行く?」

「「やったぁー!」」

姉弟揃って喜んだ。珍しく蒼威もはしゃいでいる。

 弟が私と名前が被っているので、陽花は私のことをイグサと言う。由来を聞くと、私の名前にある青藺の藺は“いぐさ”という意味があるらしい。

 姉弟2人で相談して決めた名前だとか。

「それにしても、よく藺がいぐさなんて知ってたよね」

と褒めると、蒼威が照れる。


〔蒼〕

 黒いパーカーに着替えた。

「ねえイグサ姉さん。今のお父さんの職業って知ってる?」

「どうしたの?急に」

「いや、あいつに躍起になって、お父さんに全然気を向けてなかったなって」

 今、唐突に気になっただけだが、確かに僕たちはお父さんの職業だけじゃなく、好物や好きな鉱物も知らない。かと言って自分自身の好きな鉱物を知っているわけではないが。

「本当に殺しに行くの?」

口調が陽花姉さんがいた頃に戻ったみたいだ。

「なんで?」

「だって、殺したら、私たち捕まるんだよ?」

やはり、一人称も“僕”から“私”に戻っている。

「うん、いいよ。これで姉さんが少しでも報われるなら」

「分かった」

 少し間をあけ瞬きをした後青藺が言う。


〔青〕

 陽花は前とは見る影も日向も無いくらいに痩せていた。

「ねぇイグサ。イグサはさ、可愛いんだから僕みたいに一人称が僕の方がもっと良くなるよ?」

 こんな時に、何を言っているのだろうか。「わ,分かった」

「そうだ、ずっと言い忘れてたけどさ、イグサと蒼威の他にも“あおい”って名前の知り合いがいるんだよね」

「へぇ、漢字は?」

「えっと、みどりタイプの“碧”に生き生き健やかの“生”」

 そして丁度、病室のドアが開いた。

「お、噂をすれば影ってやつだね」

 その青年の身長は私より少し高かった。

「君も“あおい”なのか?」

少し信じられない風に、碧生が聞く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る