殺傷


〔碧〕

 1人、家路を辿っていた。前までは陽花と一緒に帰っていたのだが、この前死んだ。未だ治療法のない難病だそうだ。

 あいつとの最後の会話を少し思い出す。


「最近の悩みとかってある?」

「うーん、両親が不仲なんだよな」

「仲良さそうだったけどな」

「世間体気にしてんだよ。そーゆー陽花はどうなんだよ。なんか悩みとかないのか」

「あいつと声が似てきたんだよね。やっぱ血引いてんだなって。気持ち悪いね」

「共感を求められてもな。どっちもお互い見てくれはいいんだから」

「確かにね」


 実際、陽花がいなくなってからは寂しくなった。同時に、周りの景色が変わった気がした。そこで、ネイビーののコートを着た男が,近づいてくる。ここの辺りの地図を俺に手渡し、「ファイト、ウィズ、ディス」と言った。そこで、意識は現実に戻った。手には地図が握られている。

 前からにわかに大きな音が聞こえた。窓から少女と「あおいー」と言うおっとりした男の声が飛び出す。俺と同じ名前だ。表札には,「天竺」と書いてある。その少女,葵が勢いよく転ぶ。


〔葵〕

 シャベルを手に、土を掘り返していた。落とし穴を掘っている。一緒に掘っている碧生が徐に口を開いた。

「なああお、ゼラ。落とし穴のいい所ってなんだと思う?」

「今ナチュラルに間違えたでしょ。考案者さん?」

「誰にだって間違いはあるだろ?そんなことよりどう思うよ、落とし穴のいいところ。」

 確かに、“そんなこと”ではあったので、大人しく答えることにした。

「えー、落とし穴のいい所かぁ。掘るのを半強制的に手伝わされる所とか?」

 今出せる最大限の皮肉だったはずだが、盛大に無視された。

「それはな、殺傷力が低いところだよ。」

 果たしてそれはいいところなのだろうか。というか、

「というか、これ誰引っ掛けようとしてんの?」

 と聞いたところで、紙飛行機が飛んできた。翼はは長く飛ぶように、ほぼ対照に折られている。

「あ、ごめん」

 と言ったように見えるのは青藺だ。青藺が、紙飛行機を拾う。


〔青〕

 イグサ姉さんも計画に加担しないか。と誘われた。母親を殺す計画らしい。それもこれも、全て陽花のためだと言う。

 陽花は小学時代唯一の友達だった。"わかった、やるよ”と返信すると、ついてきてと返事が来た。蒼威が玄関に向かう。

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