第11話 遺産

 透析をしていると、ベッドの脇に置いた手提げ袋の中から電話の呼び出し音。

 以前の病院は携帯は禁止だったが、ここのクリニックは医院長先生自らベッドで電話を使っていたので、OKという事になっている。

「すみません、今透析中なのでまた折り返しお電話します」と言って電話を切った。

 数日前に宮崎の義祖母が入院した病院の先生から電話があり、「施設の方から肺炎で入院したと聞いてます」と言うと、厳しい声が返って来た。「肺炎と言っても誤嚥性肺炎ですよ」そこに、事故や事件性があるかのようだった。

 母方の祖父の4番目の妻で、オカンが中学生の頃に嫁いで来た。

 今年100歳になる義祖母は認知症で寝たきり。確か管で流動食を入れられているので、そのときの事だろうか。

 今の電話はその義祖母が亡くなったという電話だった。

 成年後見人をしてくれている司法書士の事務所からのものだった。

 病院で亡くなっているので、いつまでも遺体を置いておけないはず。

 義祖母が会員になっている互助会があるので、そちらに送ってくださいと、慌てて電話をすると共に、互助会にもお願いしなければならない。

 宮崎行きの飛行機のチケットも予約して、ああ、今何しているん。透析中やで。

 かなわんなあ。

 義祖母の葬儀を華々しくしなければみっともないと言っていた母はとうにいない。

 義祖母の通帳にお金が貯まっていたはずだと母は言ったが、司法書士に成年後見人を委ねてしまったので、貯金も遺産も国のものになり手元に遺っていない。

 こちらに母が来る時に、義祖母の施設の人に言われるがまま成年後人をつけ、それも生きている間だけの後見人で、死んだ後は結局、親族のところにくるのだ。

 祖父もすごい遺産を遺してくれたものだ。

 

 祖父の鉄道公安の仕事で天津に行き、母が8歳の時その母親が亡くなった。

 次に祖父が再婚した相手は若すぎて、たぶん母との折り合いが悪く里に帰された。   

 小唄だが、長唄だか知らないが、三味線を弾くおっしょさんもいたが、籍に入らず別れたようだった。

 その後、子どもの出来ない人というので再婚した女性が男の子を産んだ。

 その男の子は28歳で事故死するのだが、若かりし頃の布施明に似たイケメンで、祖父に似て背も高く格好良かった。

 一時期、同居していたのでよく覚えている。この少し前にその母親も亡くなっている。

 その後、祖父が見合いして結婚が決まりかけていた綺麗でしっとりとした女性がいたのだが、男がいることが発覚して取りやめになった。

 明治生まれの九州男児が家事をすることに耐えられなくて、次から次へと伴侶を求めたのだろうか。

 


 

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