第10話  医院長先生

 たぶんオカンより10歳くらい年上やと思う。

 恋多き男性でオカンが知る限り、一緒に暮らした女性は前述の事務長を入れて3人。うちの祖父の5人には及ばないけど。

 実は前に行っていた4階建ての大きな透析センターを立ち上げたのも医院長だった。その当時は理事長と呼ばれ、息子さんが手腕を振るっておられた。

 看護師さんとの不倫がばれ、奥さんと息子さんから家を追い出された。

看護師さんとの間に男の子もいたのだが結局別れ、東京でのお見合いパーティで事務長と知り合った。でも、医療の医の字も知らんような女性に医療事務をさせるなんて無理な話。

「お母さん、医療事務は資格がなくても出来るんやで」

 と別の所で医療事務をする娘が言った。娘はある程度の知識がないと不安やったから勉強会に行っただけやと言う。結構真面目やん。

 今行っているクリニックは元コンビニをリフォームして、ベッド数は8床。

 向こうは1フロアに40床、3フロアある。

 朝は待合室で穿刺してもらえる時間まで待つのだが、それでも看護師さんの穿刺が追いつかず、ベッドのあちこちから苦情が出る。そりゃ、待合室で待たされ、さらにベッドの上で待たされたら不満も出る。

 こちらのクリニックは「お待たせしません」が売り。帰りも透析が終わったらすぐに送ってくれる。

 

 以前行っていた透析センターのマイクロバスの中から、ダークな色のスーツを着た男性が、空のストレッチャーを押して行くのが見えた。

 帰って来たときは、そのストレッチャーに白い布がかけられていて、明らかに人型があった。

 担当医、主任看護師、いつもは顔を見せない看護師長の顔までありストレッチャーを見送っている。

 ああ、今日も誰かが旅立ったんだ。

 

 


 

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