第9話 いつの間に

  いつも回診を終えると、向かいのベッドに潜り込み、透析を受ける院長の姿がない。「血糖値248です」なんて看護師さんに言われてるのが聞こえ、院長、それじゃ患者に示しがつかないやない。そんな高血糖になるほど、どんなご馳走食べて来たん、などと心の中で突っ込んだりするのが常だった。

 ところが、ここ1週間ほど姿を見ていない。

 入院でもしはったんかしら、と思っていたら事務長から院長が亡くなったことを知らされた。死因は心不全。カリウムがおりていたけど、その薬を飲みたがらなかったの、と事務長が言った。

 患者の透析の管が外れ、医院長は頭から血を被りながら処置にあたり、その患者が肝炎を患っていたために自ら罹患したという話しを聞いた事がある。

 だいぶ前に、事務長は東京から娘とその旦那さんまで呼び寄せて、医院長と4人家族のように暮らしていた。

 

 医院長が亡くなってしばらくすると事務長はオーナーと呼び名を代えて仕事をしていたが、雇い入れた医院長に「毎月100万円支払わなくちゃいけないわ」と悲鳴を上げていた。

 そうか、医院長はこんな小さな病院でも100万円稼ぐのか。やっぱり医者は儲かると言うのはほんまや。元手もかかっているしね。

 

 ある日、オーナーがいなくなり、医院長も代わった。

 受付の前に置いてあった熱帯魚の入った水槽も、来客用のスリッパも消えた。

 看護師、技師さんたちは今まで通りそのまま遺り、どうやお金持ちの歯医者さんが、この病院を買い取ったと聞き、新しい医院長がやって来た。

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