第7話 ゴッドハンド

 10年間お世話になった透析センターから透析クリニックへ転院した。透析開始前の栄養指導の年数を入れれば14年になる。

 転院した初めの頃、穿刺がうまくいかなくて4、5回もやり直しをした。しまいには腕の内側から表側にまで穿刺した。

 透析の始まる1時間半前頃から家で麻酔テープを貼って行くのだが、テープの貼ってある箇所、そんな事にはお構いなしだった。

 それまで透析センターでシャントの拡張をしてもらったのだっが、転院すると同時にそれも変わった。

 

 シャントの拡張手術をする専門医院で診てもらうと、スクリーンに糸のように細くなった血管が映し出された。

 ああ、これだけ細くなっていたら、カテーテルが血管に入らなくて無理だな。右腕にシャントを作り直してもらわなければならないなあ、と思っていた。

 ところが、何と無事にカテーテルが通り、それに取り付けられた風船で血管を膨らませる事が出来た。

「ああ、とても無理だと思った」

 感嘆の声をあげると、

「僕も無理やと思った」

 と術を施してくれた先生が仰った。

 神だ。まさしくゴッドハンド。

 風船を膨らませている間、痛いのはどの先生も同じだけど、カテーテルを入れた後の傷穴もわからなかった。

 以前の病院の先生は未熟と言う事もあるのだろうが、肘が曲がるところの内側辺りからカテーテルを入れ、シャントのある手首近くまで挿入するのだが、入れる血管を間違えもう一度やり直すというお粗末ぶりだった。大きな切り傷を2箇所も作られてしまい、痛いことこの上なかった。

 オカンの血管は縮みやすいという性質があり、3、4カ月おきに拡張に行かなければならない。

 血管が縮みにくくなる薬が出来て、それを膨らませる風船の回りに塗るという画期的な方法が見付かったと聞いたので期待しているのだが。

 だって、風船は恐ろしく痛い。

 

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