第4話 別れ
あれほど憎まれ口を叩いていた母が、施設に入所すると同時に、何を言っているのかもわからないお婆さんになった。
「お母さん、入れ歯してないでしょ」もごもご言っているので思わずそう言ったが、入れ歯はしていてそれだ。
荷物は最低限の物しか持っていかなかった。テレビもいらないと言う。
ただ、引き出しのついたドレッサーと、1カ月毎日着替えても余りあるパジャマを持って行った。
その日は透析がない日で、洗濯物を取り込んでいると携帯が鳴った。
「お母様の呼吸が弱くなっています。お急ぎになられた方がよいと思います」
施設からの電話に、タクシーを呼んで駆けつけたが、エンゼルさんが母の旅立ちの用意をしていてくれた。「施設の方たちにお見送りされ、お母様淋しくはありませんでしたよ」その言葉にどれだけ救われたか。
父の宮崎での華々しい葬儀と違って、誰も知人のいない母の葬儀は家族葬でこじんまりとしたものだった。
80歳で脳梗塞で倒れ車椅子生活になり、大阪のマンションで4年、施設に入所して10日目で帰らぬ人となった。
実は、母がこんな人だったとは近くに住んでみるまで知らずにいた。母親の理想像を描いていて、勝手に形作っていただけなのかもしれない。
母は母で大人しく自分の言いなりになった娘がどうしてなの、と思ったことだろう。だって、そうしなければヒステリックな母のこと黙らざる得なかったのだ。
この近くに住んだ4年間がなければお互い優しいしい、いい人で終わっていたはず。
もし、宮崎で倒れている母を放っておいて、何もわからない状態になっていた方が母は幸せだったのかもしれない。
母の部屋の荷物の整理がなかなか進まなく、リサイクル業者に追われるように片付けた。これは置いとことうと思ったものまで、綺麗さっぱり持って行ってくれた。
最後には貴金属まで掻っさらって行った。
いったい何回、母の部屋の片付けをせにゃならんのやろ
ほっとしたら手術したはずの腰が痛い。
病院へ行くと、手術したのと別の箇所もヘルニアだそうだ。
それより頸椎が相当悪いらしい。
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