7話目

世界が消えて、彼は慌てて友の元へ向かいました。

あの世界には友の一等大切な者があったはずです。

友に早く知らせてやらねばと、彼は飛び込むようにして友の部屋に入りました。


「ねぇ…」


それはそれは甘い友の声が聞こえます。

彼は開いた扉の前で脱力しました。


膝の上に娘を抱いた男が「やぁ」と一言彼に笑いかけてきたからです。



「ねぇ、ねぇ、いつになったら結婚してくれる?」

彼の事などまるっと無視して友は腕の中の宝物に甘えた声で問いました。


「しません」

娘は即答しましたが、友の腕から逃れようとはしませんでした。


「式はいくつお直しする?」


「だから、しませんと言っております」

「どうせなら和装の式もあげちゃおうか!」


友は前から頭のねじが緩んだところがありましたが、最早ネジが何十本も抜けたような一方的な話を続けます。


「会話をする気はありますか?」


そういいながらも娘の友を見る目はどこか甘さを含んでいました。


何を見せられているんだ。

彼は死んだ魚の目で茶番劇を見守る事になりました。



「そんなに嫌?」

「貴方は一度私を要らないと言ったではありませんか」


「拗ねてるの?でも本当に要らないとは言ってない!」


慌てる友が言い訳をはじめます。

なんとも惨めな姿で娘に説明しようとする友を彼は不思議な気持ちで眺めていました。


「覚えがありません、ほとんど会話も覚えてませんから」

「もぉ!疑うんなら映像もある!脳内再生だから、頭を増やせば一緒に見れるよね!?」


「……そこまでされるなら薮坂ではありませんね」


それは晴天の霹靂とも言える一言でした。

友は見たこともない真っ赤な顔をして気色ばんでいます。


「?!??!」

「今からではありませんよ」


「なんでさっ!!」


腕の力を強くして友は吠えました。


「私はまだ月経がきておりません」


「会話全部覚えてるじゃん」


どこか脱力した様子で友は娘の尻に敷かれる事が決まりましたとさ。


おしまい。


______________

設定(細々したのは省略)


インド神話で実際に描かれている夫婦の設定を使用


サシェ→サラスヴァティ…ブラフマーの身体から作られた娘。美しい出来にブラフマーは嫁にする為に何度も求婚したとされる。

神様→ブラフマー…作った娘に一目惚れ。ずっと見すぎて顔?足?がいっぱいできた。


神童…7つを超えた人の子は神域で生きられないとされる。


人間が供物を捧げて祈りの言葉を唱えれば、神々が力を貸してくれるとされている事から自分を供物にして、誰よりも先に『世界の消滅』を願った。


ブラフマーはインド神話の中で「苦行を達成したものにはブラフマンに従って力を与える」ような行動をします。

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生贄にされた娘が神様と結婚する話 甘糖むい @miu_mui

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