第3話 利用価値

 司祭が俺に掴みかかってきた。


 俺は無意識に手を払った。


「ペキッ!?」


 何か変な音が??


「痛い!イタタタタタ!!」


 司祭が手首を押さえ、うずくまった。


 大げさだな、そんな事くらいで。


「大丈夫ですか?司祭様」

「そ、その男を捕らえろ!は、早くするのだ」

 司祭は控えている騎士に叫ぶ。

「なりません。先に手を出したのは司祭様ですから」

 王女が騎士を止めてくれた。

 

 司祭の手を見ると変な方向に曲がっていた。

 特技かな?


「司祭様、少し痛いですが我慢してください」

 王女が司祭の紫に腫れあがった手首を伸ばした。

「イタタタタタ!」

「我慢してください、ヒール」


 王女の翳した手から暖かい光があふれる。

 その光が司祭の手首を包む。


 しばらくすると徐々にだが、腫れも引き始めた。


「私にできることは、ここまでです」

「ありがとうございます。ビッチェ王女様」


「あの~、今のは?」

「治癒魔法です」

「ビッチェ王女様はこの国でも数人しかいない、回復魔法の使い手なのだ」

 司祭が自分のことのように得意げに自慢する。



 回復魔法を初めて見たタケシは、自分もできそうなそんな気がしていた。

「いえ、私の魔法では大したことは出来ません。骨折した手を少し直すくらいです」

「骨折していたのですか?」

「えぇ、そうです」

「よほど、間の悪いとことに当たったのですね」

「この小僧が!」

 司祭が手首を押さえながら、顔を赤くしている。

 自業自得なのでは?


「タケシ様。おっしゃる通り今の段階では元の世界に戻れる手段がありません」

「でしょうね、召喚は出来ても、元の世界には戻れないと思います」

「どうしてでしょうか?」


「似たような世界がたくさんあるとします。そこから呼び出すとしたら、その逆はどうでしょうか?どこに戻していいのか分からないのに、戻せる訳がありません」

「そうですね、どこから呼び出したのか分からないのに。タケル様も召喚した私を恨んでいるでしょう。ですがそれでも、私達は、いいえ、私はこの国を救いたいのです」


「いいえ、恨んでいませんよ」

「え、本当でしょうか!」

「えぇ」

 元々、転移予定だったし。戻るところも無いですから。


「タケシ様だけでも、そう言って頂けると肩の荷が下りた気がします。生活も保障いたします。後は聖女様に分かって頂けるかですね。どうかタケシ様、お力をお貸しください」

「わかりました、俺で良ければ。そして生活は保障して頂けるのですね」

「ええ、召喚した私達のそれが責任ですから」



 それからこの国の話を聞いた。

 ここはジリヤ国の王都で、召喚された場所は王都の中にある神殿だった。

 シャルエル教を信仰しており、女神ゼクシーが絶対神だ。

 スレンダーなメガネ女子だと知ったら驚くだろうな。

 

 そして一般市民で1日の収入が3,000円くらい。

 5,000円で高収入だとか。

 そして俺の待遇は、1日8,000円で末締めの翌25日払いとなった。

 どこかの会社か?

 しかも一般市民の3倍近い額だ。


【ユニークスキル】異世界言語の効果なのか?

 お金の価値は、俺が理解できる金額に聞こえてくる。



「タケシ様、お願いがあります。異世界から召喚された方は勇者様の様に、特殊な力がある場合が多いのです。もしそうなら聖女様と一緒に、私達に力をお貸しください」


 なにかそれも面倒そうだな。

 それに本当にこの人達を、信用していいのか分からない。


「俺にはそんな力はないと思いますよ。できるのは、聖女様の話し相手位ですよ」

「そんなことは無いと思います。召喚されたばかりでお疲れでしょうから、お部屋へ案内させますわ」


 そして王女が手を2回叩くとドアが開き18歳くらいのメイドさんが入って来た。

「タケシ様はお疲れですから、お部屋に案内して差し上げて」

「わかりました、ビッチェ王女様。さあ、こちらへどうぞ」



 貴族の様な服を着た男の人は誰だったんだろう?

 俺の事をずっと見ていたけど。

 そんなことを思いながら、俺はメイドさんに案内され部屋を出た。



「いかがでしたでしようか?オバダリア様」

「残念ですがビッチェ王女様、彼は凡人です。私の鑑定では何も見えませんでした」

「本当ですか!異世界人が凡人とは残念です。では本当に聖女様の話し相手位しかできませんね」


(な、なんだと。あの小僧が凡人だと。偶然とはいえ、私の手の骨を折る無礼を働いておいて。異世界人なら利用価値があると思ったが、凡人なら容赦はしない)


 シャルエル教司祭、ロターリは悪い顔をしていた。


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