第2話 聖女召喚

 ジリヤ国 西暦185年3月15日


「や、やりました。王女様、成功です!」


 目を開けるとそこは石作りの神殿の様な場所だった。

 石畳には魔法陣の様なものが描いてあり、その中心に俺は、いや俺と中学生くらいの女の子がいた。

「召喚成功です、さっ早く聖女様を別室へ」

「司祭様、男の方はいかがいたしますか?」

「男はとりあえず、どこかの部屋に連れて行け」

「はっ、わかりました」


 そう言うと騎士の様な格好をした男が近づいてきた。

「さあ、立って。ついてきなさい」

 男に促され俺は立ち上がり後をついて行く。


 俺はTシャツとジーンズを履いている。

 男と並びながら歩き後ろから他に2名がついてくる。


「あの~、ここはどこでしょうか?」

 歩きながら騎士に話しかける。

「ここはジリヤ国だ。そして君達は召喚された。だが君は巻き込まれたようだ」

「巻き込まれた?」

「あぁ、今この国は魔物の数が増え国力が落ちてしまった。そこで国始まって以来の、聖女召喚の儀式を行い聖女様と君が呼ばれた訳だ」

「あぁ、そう言う事ですか」

「意外と落ち着いているね」

「はい、なんかそんな事ではないかと思いまして」

「と、言うと」

「俺の国では召喚物の本が多くて、よく読みましたから」

「なに、すでに召喚が伝承化されているのか」


 単に病気で入退院が多く、ファンタジー系の本を読むのが好きだっただけだ。

「この部屋で待っていてくれ」


 そう言われドアを開けられ中に入った。

「何かあれば人を残しておく、そいつに言ってくれ」

 そう言うと騎士は出ていった。


 部屋の中は休憩所の様な質素な部屋だった。

 椅子とテーブルがある。

 立っていても仕方がない、俺は椅子に座った。


 確か転移したはずだ。

 でも何故、召喚なんだろう?



 タケシは知らなかった。

 誰も知らない異世界に転移することになる。

 それなら最初から召喚イベントで人と関わった方がいい。

 女神ゼクシーのささやかな思いやりだった。


  ◇  ◇  ◇  ◇


 そう言えばステータスは見れるのかな?


「ステータスオープン!」


 名前:本郷 たけし

 種族:人族

 年齢:17歳

 性別:男

 職業:聖人


 HP 300

 MP 500

 攻撃力 G

 防御力 B

 素早さ G

 知力  F

 魔力  F


 状態:良好


【スキル】

 状態異常無効

 一騎当4いっきとうし

 聖魔法:LV1


【ユニークスキル】

 異世界言語

 鑑定

 時空間魔法ストレージ


【加護】

 女神ゼクシーの加護



 おぉ、見れた。

 やけにシンプルなんだな。

 それにステータスの能力はアルファベットなんだ。


 俺は空中に映っているステータス画面に手を伸ばしタップした。

 そしてスマホの様に指で広げると詳細が見れた。


 職業、聖人てなんだ?


『職業について』

 持って生まれた天職。

 または努力で手に入れた今就ける職業の事。


 俺は聖人て、職業に就けるのか?

 でもどんな職業なんだ。

 聖女と一緒に召喚されたから聖人なのか?

 しばらくこのことは黙っていた方が良さそうだな。



『ステータス能力について』

 能力はアルファベット26段階で表示される。

『A』に近づくほど能力は高くなる。


『人の能力を数字化するのは無理です。

 分かりやすい様に、せめてアルファベット表示にしています』


 数字化するのは無理か。

 それはそうだよね。


 俺の防御力はBだ。

 それだとかなり防御力が高い、て事かな。

 戦闘は攻撃力Gと魔力Fで聖魔法が使えるみたいだから、どの程度なのかは実際にやってみないとわからないな。

 でも実践は怖いな。



 状態異常無効もついている。

 病気や怪我をしない丈夫な体をお願いしたからかな。

 

 しかし生身の体で防御力が高い、てどういう事だろう。



 ではこれは?

一騎当4いっきとうしについて』

 1人で4人の敵を相手にできる強さ。

 学識・経験・手腕などが4人前の実力。

 千人、目指して頑張ろう!


 女神ゼクシーには確かに、「自分を含め誰か4人は守れる強さをください」て、言ったけど。

 なんだかゴロが悪いな。

 一騎当千いっきとうせんだよね?

 しかもなんで『4』は数字なの?

 漢数字では?


『数字が大きくなると表示が面倒だからよ。536とかになったら、どうすんのよ』

 そんな女性の声がどこからか、聞こえた様な気がした。





 トン、トン!


 ドアを叩く音がした。

「どうぞ」

 俺がそう言うと、この部屋に案内してくれた騎士さんが立っていた。


「お待たせいたしました。こちらへどうぞ」

 そう言われ俺は部屋を出た。


 しばらく廊下を歩き別の部屋に案内された。

「この部屋になります」

 部屋の中に入ると王女と呼ばれていた15、6歳くらいの少女が椅子に座っていた。

 その両脇には俺にぞんざいな口を利いた50代の司祭と、貴族の様な服を着た30歳くらいの男の人が立っていた。


「さあ、座ってください」

 王女に促され俺は椅子に座る。


 テーブルを挟んで向かい合う。


「お名前を教えて頂けませんか?」

「本郷 武です」

「タケシ様ですね。私はこの国の第一王女ビッチェ・ディ・サバイアです」

(いきなり、名前呼びなんだ)

 王女は知らなかった。

 日本人は名字が前で、名前が後に来ることを。

 


「ビッチェ王女様。こんな下賤な奴にそんな丁寧な言葉を使わなくても」

「お控えください、司祭様。タケシ様はどんな理由かは分かりませんが、私の召喚で

この世界に呼び出されてしまったのですから」

「わ、わかりました。ビッチェ王女様」


「タケシ様、申し訳ありません。実はここ数年、魔物の数が増え国を挙げて討伐をしても、倒しきれないほど荒れているのです」

「は~、大変ですね」

「それを挽回しようと言い伝えにある聖女召喚を行ったところ、聖女様とタケシ様が召喚されまして…」

 王女はさらに話し出す。


 一緒に召喚された女の子はこれから、聖女としての勉強をする。

 召喚された人は勇者の様に、特殊な能力がある人が多い。

 だから俺にも力になってほしいと言う。



 話を聞くと一緒に召喚された女の子が、取り乱しているという。

 それはそうだ。

 いきなり知らない世界に召喚され、聖女になって魔物と戦ってください!と言われてもね。

 そして帰りたいと泣き止まないらしい。

 魔物を倒したら戻れるようにします、と言っても駄目だったそうだ。



 異世界召喚の定番は元の世界に戻れないことだから。

 ファンタジー好きの人なら誰でも知っていることだ。


 だから同郷の俺に話し相手になってほしいそうだ。

 

「王女様、嘘はいけません。召喚をして元の世界に戻れる保証があるのですか」

「そ、それは」

「き、きさま!ビッチェ王女様になんと失礼な事を」


 司祭が俺に掴みかかってきた。


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