第4話 小鳥
メイドさんに案内され、俺は部屋の中に入った。
「あの~質問していいでしょうか」
「私に分かる事であれば」
俺は知りたいのは時間の感覚だ。
メイドさんに聞いたところ1日は24時間で1年は360日。
割り切れやすいようにかな?
時間は各教会が2時間おきに、鐘を鳴らし住民に教える。
今の時間は12時くらいだそうだ。
慣れれば時間の感覚は分かるとか。
俺は部屋の一室に案内された。
「こちらのお部屋をお使いください。何かあればこの鐘を鳴らしてください」
そうメイドは言うとハンドベルを置いて行った。
部屋の中は6畳くらいでベッドとテーブルとイスとタンスだ。
俺は仕方なくベッドに横になった。
これからどうする?
ここから出ても自分一人で生活できる基盤がない。
この世界のことが良く分からない以上、ここから出ていくのは得策ではない。
誰か教えてくれる人が欲しいな。
だが俺みたいな『聖女様の話し相手』程度の男に、人を付けてくるだろうか?
それに12時くらいなら、お昼ご飯は出ないのかな?
聞いてみよう。
俺はハンドベルを鳴らした。
「チリン、チリン!」
しばらくすると誰かが来る気配がし、ドアをノックする。
「どうぞ」
「お呼びでしょうか?」
ドアが開き先ほどのメイドさんが顔を出す。
俺はこの世界の事を知るために、教えてくれる人を付けてほしい事をお願いした。
そして食事の事を聞くと、基本1日2食とのこと。
でもそれではお腹がすくので、途中で間食はするそうだ。
なら3食、ちゃんと食べようよ。
お腹が空いたので少量で良いので、何か食べるものが欲しいことを伝えた。
「分かりました、食べ物をお持ち致します。それからお付きの人を希望されていることも、王女様にお伝えいたします」
「それからこの宮殿の中を、出歩くことは可能なのでしょうか?」
「それは難しいと思います。タケシ様のお顔を知っているものは、ほとんどおりませんから」
「そうですよね。ある意味、俺がうろついていたら不審者ですよね。せめてトイレくらいは場所を教えておいてください」
「こ、これは失礼いたしました。部屋を右に出てしばらく歩き、2つ目の角を左に曲がって2つ目の角を右に曲がり十字路を左手に曲がったところにあります」
「そ、そうですか。やはりお付きの人が、必要かもしれません」
(いったいどこにトイレはあるんだ?)
「申し遅れました。私はイルゼです。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
イルゼさんて言うのか。
さすが異世界、青色の髪の毛なんて初めて見た。
それに動きに隙がなくメイドさんというより、戦闘もできそうだ。
そうだ。
【スキル・鑑定】発動!
名前:イルゼ
種族:人族
年齢:19歳
性別:女
職業:戦闘メイド
HP 180
MP 50
攻撃力 L
防御力 M
素早さ L
知力 L
魔力 N
状態:良好
【スキル】
暗器:LV2
体術:LV2
剣術:LV3
おぉ~!
19歳で俺より2つ上か。
まず女子の気になるところは、そこからだよね。
ふむふむ、戦闘メイドというより暗殺者だな。
でもステータス値が最高でも『L』か?
俺より低い。
これはどういうことだろろう。
武は知らなかった。
能力はアルファベット26段階で表示される。
庶民の成人男性がたどり着けるのが真中15の『O』くらい。
1つでも10位内(A~J)の能力があるだけで、この世界では凄いことなのだと。
そして比較がないため、全ての能力がそれを上回る、『G』以上である武は自分の能力がどれほど凄いことなのか分からなかった。
「タケシ様、いかがされましたか?」
「いえ、なんでもありません」
ま、まずい。
相手を鑑定するという事は、相手を凝視し続けることになるようだ。
気を付けないと。
「では、後ほどお食事をお持ち致します」
そう言うとイルゼさんは部屋を出ていった。
部屋から出れないという事はある意味、監禁状態だな。
そんなことを考えながら、俺はベッドに横になった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
トン、トン!
ドアを叩いたが返事がない。
まさかタケシ様になにかあったのか?
メイド服の長いスカートを少しまくり、太腿のホルダーから短剣を引き抜く。
私は急いでドアを開けた。
「タケシ様!」
回転しながら部屋の中に転がり込む。
「えっ?」
「ス~、ス~、ス~」
タケシ様はベッドに横になり寝息を立てていた。
いきなり知らない世界に召喚され、緊張状態が続いていたのかもしれないわ。
でもせっかく作った食事が冷めてしまう。
突然の事だから食事を作るのに厨房も時間が掛かったわ。
お昼寝くらいの時間はすでに寝たはず。
昼間に寝ると夜、寝れなくなるから起こそうかしら。
タケシ様の寝ているベッドの左横に立ちしゃがみ込んだ。
黒い瞳、黒い髪。
勇者伝説のままね。
12~14歳くらいに見えるけど、話し方からするともっと上かもね。
いくつなのかしら?
まだ幼顔だけどいい男になるかも?
「タケシ様、起きてください」
私はタケシ様の左肩をゆすった。
「お食事が冷めますよ」
「う~ん」
「タケシ様、キャ!」
タケシ様は寝ぼけているのか、私の手を掴み引き寄せた。
そして私の抵抗もむなしく、一瞬で抱き寄せられた。
凄い力だった。
今まで私は誰にも後れを取ったことはなかったのに。
タケシ様の手を振りほどけなかった。
今まで自由に羽ばたいていた私は、小鳥が羽を休めるようにタケシ様の胸に顔をうずめていた。
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