第6話 改、フリーゲに入る。

フリーゲイベントの「アニマルファイター」最強王決定戦が終わり、月曜日になった。改は眠い目を擦りながら干支珠高校に向かった。


水鳥「おはよ、改。」


改の肩を叩き挨拶してきたのは緑色の長髪が特徴な女・・・・・・ではなく男子生徒の豆生田水鳥だった。


改「水鳥か、おはよう。」


水鳥「先週のフリーゲ見たか?今まで負け続けていたミャー子がまさかの全勝!負けた豪樹が怒り狂ってミャー子に手を上げようとしたら突然あの天才ゲーマーの犬氏がコメント欄に現れて豪樹と対決したんだ。豪樹もプロゲーマーレベルだけど、やっぱり犬氏は強かった!しかもまたゲームに復帰するって言ってたから昔のような人間離れしたゲームセンスをまた見れると思ってさ!」


改「落ち着けって・・・・・・テンション高いぞ水鳥。」


水鳥「落ち着けるわけないじゃないか!僕も犬氏の大ファンだったんだから!」


改「そうだったんか・・・・・・」


改は苦笑いをしていた。実は犬氏の正体は自分であることも言えず、復帰するのもあの争いを止めるための話題替えだっただけであることを改は伝えられなかった。


?「おはよう、二人とも。」


また後ろから柔らかく優しい声が聞こえた。


水鳥「なんだ、「いのり」か。」


改「おはよう、水無月さん。」


彼女は「水無月いのり(みなづきいのり)」改たちと同じクラスで栗色のストレートのロングヘアが特徴。物腰柔らかく、1組の学級委員も務めている。


改「おいおい、水無月さんを名前呼びとかもうそこまで仲良くなったのか?」


いのり「うん。私も他県からこの学校に来たから友達ができるか不安だったから水鳥くんには感謝しているよ。」


水鳥「別に、僕はクラスメイト全員と友達になれればいいなと思ってね。でも、難しそうな生徒は2人いるけどね。」


改「猿渡と猫柳か?」


水鳥「そう、一人は気性が荒いし、もう一人は黙り込んでいて何考えているのか分からないしね。」


いのり「そうね。猫柳さんは私も何回か話しかけたんだけど反応が薄くてね。いずれ仲良くなれればいいんだけど・・・・・・」


改「あ~~~~なるほどね。」


水鳥「なんか知っているのか?」


改「いや、別に俺も知らないよ?」


水鳥「だよな~」


そんな話をしながら教室に入っていった。豪と都はまだ学校に来ていない。そろそろホームルームが始まる8時半になる。


改「そろそろ桐谷先生が来るな。(猫柳のやつ今日休みか?)」


チャイムが鳴り桐谷先生が教室に入ってくる。


桐谷先生「お前ら、席に着いたか!?ホームルーム始めるぞ。」


チャイムが鳴り終わる直前に後ろの引き戸が開き息を荒げていた都がやってきた。


桐谷先生「猫柳、また遅刻ギリギリだぞ!いい加減に時間に余裕もって来い!」


都「ハアハア・・・・・・すいやせん・・・・・・」


都はずれていた変装用の眼鏡を上げた。


改「(関西弁になってるぞ・・・・・・)」


桐谷先生「それに猿渡はサボりか・・・・・・」


改「(猿渡は休みか・・・・・・)」


桐谷先生は小言を言いながらホームルームを始めた。


放課後、改は用事でフリーゲのスタジオに向かっていた。もちろん周りの確認をしながら。


改「(なんか警察から逃げている指名手配犯みたいだな・・・・・・)」


?「な~にしてんの?」


改「わぁ!!」


?「声が大きい!」


改は口をふさがれた。よく見ると普段の姿の都がいた。


都「干支珠スタジオに何か用?」


改「用って、まあ用なんだけど。」


都「私も用事があるから一緒に行こうよ。」


改「うん。」


干支珠スタジオに入るためロッカーの中にあるスタジオ入口に入る。


真理佳「いらっしゃ・・・・・・あら、珍しいお客様だね。」


改「どうも、お久しぶりです。」


真理佳「もうスタジオには来ないって言ってなかったっけ?」


改「そのことなのですが、寅好先生に頼んで入部届をもらいました。」


真理佳「もしかして入部してくれるの!?」


改「はい、これからよろしくお願いします。」


改は真理佳に入部届を渡した。こうして新しく干支珠高校ゲーム実況部のメンバーが加わった。


真理佳「さて、あとはバーチャルのキャラクターイラストとキャラネームを決めなくちゃいけないけど。」


改「そうですか・・・・・・」


帰り道、改は考えながら歩いていた。


都「もしかしてまだ名前を考えているの?」


改「そうなんだよ。いつも犬氏って適当に考えていた名前使っていたからほかの案が思いつかないんだよ。」


都「じゃあ犬氏で活動したら?」


改「ばっバカ!できるわけないだろ。宇佐美会長に犬氏って信じられないだろうし。なるべくはこの名前は使いたくない。」


都「そんなものかね?」


改「あの時はケンカになりそうだったから止めるために使っただけだしな。」


都「そうだ、そのお礼をするの忘れてた。ありがとね。」


改「なんか言わせてしまった感があって悪いな。」


都「そうだ、お礼になんかおごってあげる。アタシに何でも言ってちょうだい。」


改「別に、悪いよ。」


都「遠慮しなさんなってこう見えてもヴィーチューブでの収入でお金はそこそこあるわよ~」


改「そんなんじゃねえって。」


都「もう、頑固なんだから。じゃああの喫茶店入ろう!」


改「あっ、その喫茶店は!!」


腕を掴まれた改は都に連れられ緑と茶色のレトロな感じのお店に入っていった。


?「あらいらっしゃ~い。」


都「こんにち・・・・・・ぎゃ~!」


都は店員を見て思わず叫んだ。


改「当たり前だろ。このお店に来てアンタを見て驚かない人がいたら逆にビックリするわ。」


その店員は男性だが黒のエプロンドレスに濃い化粧をしているいわゆる「オカマ」である。


強羅「初めましてお嬢ちゃん。私、この喫茶「ブルマン」のマスター「筒路 強羅(つつじ ごうら)」よ。」


改「とりあえずマスター。いつものブレンドコーヒーで。」


都「もしかして犬神くん。この店に何回か来ているの?」


改「ここはコーヒーが美味いんだ。店主のクセが強すぎるけどな。」


強羅「もう、犬神くんてば辛辣なんだから。」


都「私もコーヒーで。でも砂糖とミルクをお願いします。」


強羅「はいは~い。承りました~」


と野太い声で都の返事を返した強羅は奥の厨房に消えていった。


改「はあ・・・・・・」


都「なんでそんなに来させたがらないの?あのマスター面白い人だったじゃない。」


改「いや、クラスメイトに勧める店じゃないだろここは・・・・・・」


都「確かに・・・・・・」


改は実際にヴィーチューバー活動をするにあたってVキャラのキャラ設定を下書きで書いてみる。


改「こんな感じかな?」


改のキャラデザは犬のケモ耳男子高校生をイメージしたキャラである。


改「苗字犬神だし、犬キャラがいいかなって思ってこんな感じにしてみようと思って。」


都「へ~犬神くん絵を描くの上手だね。」


改「そういえば「ミャー子」のデザインは誰がやっているんだ?」


都「母の知り合いでキャラデザを仕事にしている人がいてね。その人に頼んでいるんだ。」


改「でもデザイナーってお金かかるよな。俺みたいな学生じゃ到底無理だよ・・・・・・」


都「確かにね。私の担当している人は安めで提供してもらっているけど。」


強羅「あらあら、2人して何の話をしているのかしら。」


2人の席にコーヒーを持って来た強羅がやってきた。


改「わっ!別に何でもねえよ!!」


と改は下書きの紙を隠す。


強羅「別に隠さなくてもいいじゃな~い。」


改「うるさいな・・・・・・」


強羅「も~犬神くんてば~」


改「もういいかげんに・・・・・・」


その時、ドアが開く音が聞こえた。


強羅「いらっしゃ・・・・・・あら来間(くるま)さんじゃない。」


入ってきたのはベージュ色のロングヘアにシュシュで髪をまとめた女子大生が入ってきた。つり目が特徴だがなぜか怖い感じがしない。


玲「こんにちは。ブレンドコーヒーとチョコレートパフェをお願いします。」


強羅「いつものやつね。」


強羅は改たちの机にコーヒーを置いてそのまま厨房に消えていった。


突然来たこの女性。「来間 玲(くるま れい)」はカウンター席に座ろうとするが改の隠していた下書きの紙が気になっていた。


改「な・・・・・・なんスか。」


玲「えっと。何を書いているのかなってちょっと気になっちゃって。」


都「キャラデザをしているんです。」


改「おい猫柳!!」


玲「キャラデザですか。配信とかで使ったりするんですか?」


改「まあ・・・・・・そんな感じですね。でもキャラがなかなかできなくて。」


玲「あの・・・・・・私でよければデザインの手伝いをしても大丈夫でしょうか?」


改「え!?いいんですか?」


玲「ちょっとお借りしてもいいですか?」


改は下書きの紙を玲に渡した。


玲「かわいらしいですね。このままでもいいと思うんですが。」


改「でもこれを分身にするにはなんか物足りない感じなんですよね。」


玲「だったら、ちょっと待ってください。」


玲は自分のカバンからタブレット端末をだし、タッチペンで書きだした。チョコレートパフェとコーヒーを出されたのも気づかず無我夢中で書いていた。


玲「できました。」


改「どうも・・・・・・え!」


改はそのデザインを見て自分の納得のいくキャラデザに仕上がっていた。


改「ありがとうございます。あの・・・・・・お代は」


玲「いえ、いいですよ。ただ趣味で絵を描いただけですから。」


都「好きな物でこのクオリティはすごすぎですよ。」


強羅「彼女は多趣味なのよ。」


玲「店長いつの間に・・・・・・」


強羅「でも本当の将来の夢は小説家なのよ。たまにここで新作を書いたりしているのよ。」


都「へ~小説ですか?」


玲「まだ、閲覧数も少ないですし・・・・・・なかなか難しいと言いますか。そうだ、このキャラの名前って決めてないですよね。」


改「そうだ、全然決めていなかった。何て名前にしようか・・・・・・」


都「・・・・・・・・・・・・「カイ」」


改「へ?」


都「カイがいいんじゃない!?ほら、下の名前の改を別の呼び方にしたらカイになるでしょう。なんかかっこええし。」


改「かっこええって・・・・・・でもカイか。確かにいいかもその名前。」


次の日。干支珠スタジオで改ことカイの初お披露目配信をすることに。真理佳や義治。そして2年生の辰浪こと本名「辰巳 並木(たつみ なみき)」。そしてもう一人フリーゲのメンバー「馬理央(マリオ)」こと「馬頭 理央(まとう りお)」がいた。茶髪のゆるふわボブが特徴の女子高生だ。並木と理央は2年生である。豪は今回も休みである。


理央「まさか推薦以外でこの部活に来るなんて。しかも配信自体初めてなんですよね。こんなやつ入れて大丈夫なんですか?」


都「大丈夫です。彼ならきっと。」


理央「人気者のお墨付きってわけね。」


改は青い顔をしていた。緊張のあまり吐きそうになっていた。


真理佳「まさか緊張しているの?」


改「そのまさかです・・・・・・」


義治「ゲロる{カミングアウト}の早いね。まだ本当に吐かないだけでもいいか。」


待機中のコメント欄には新人の正体はどんな奴なのかと大騒ぎだった。


真理佳「よし、じゃあ始めるわよ。」


真理佳は配信開始のボタンを押した。


マリット「みんな、こんにちは!ようこそ「十二ゲーム放送局」略して「フリーゲ」に。今回告知したとおり、新しいメンバーを紹介します。では「カイ」くんどうぞ!!」


コメント「カイ?」


コメント「新人か?」


カイ「あ・・・・・・どうも・・・・・・」


カイの第一声は「あ・・・・・・どうも・・・・・・」での始まりだった。


コメント「男のライバーか。」


コメント「大丈夫、緊張してるのか?」


コメント「リラックスしろ~(笑)」


とコメント欄は温かくなっている。


ミャー子「もう、しょうがないニャ~緊張をほぐすためにこのアニマルファイターチャンピオンのミャー子に任せるニャ!」


コメント「早速そのネタ擦るか(笑)」


コメント「チャンピオンクラスにカワイイミャー子様!!」


コメント「後輩の尻拭いナイス!!」


ミャー子「ちなみにこのカイくんアニマルファイター強いから今から対戦してみようかな?」


カイ「は!?」


ミャー子「もしかして自信ないかニャ~」


カイ「分かりました。先輩の胸を借ります。」


ミャー子「え~エッチ~」


カイ「本当の意味じゃねえよ!!」


コメント「ツッコミ属性か(笑)」


コメント「でもカイの実力見てみたい。」


カイ「分かった。じゃあ一戦な。」


とアニマルファイターの対戦をすることに。ミャー子は優勝したキャラのエレファスを使用。


カイ「(ガルベロスはさすがに犬氏だとバレるしな。だったら・・・・・・)」


カイはキャラを選択。使用キャラは同じエレファスだった。


コメント「まさかのミラー対決!?」


コメント「強気だな。」


試合が始まった。ミャー子は先手必勝で攻撃をしていき、序盤はミャー子優勢だった。


ミャー子「あれあれ~このままじゃ勝っちゃうニャよ~」


カイ「悪いな、これも作戦のうちなんだよ。」


カイはガチャガチャとコントローラーを動かし必殺「ヘビーインパクト」を使った。ミャー子は適当に動かしてたまたま出したもののカイは経験者だけあっていとも簡単に出してしまった。そこからはカイの方に有利が動き結果カイの逆転勝利で終わった。


ミャー子「ミャ~!!負けちゃったニャ~!!」


カイ「よし、勝った。」


コメント欄もあまりの強さに


コメント「あの状態から逆転勝利・・・・・・すごい・・・・・・」


コメント「とんでもない新人が現れたぞ・・・・・・」


コメント「チャンピオンを破ったぞ~!!」


カイ「あの、あまりしゃべれない僕ですがこれからみんなにゲームを楽しく見ていただけるように頑張りますんでよろしくお願いします!!」


コメント欄から拍手のコメントであふれていた。こうして緊張で始まったカイの初実況はミャー子のおかげで無事に終わることができた。


第6話(完)

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