第5話 虹薔薇のヘッドフォン
マリアンヌは俺の一言で硬直した。
……こういう時、「異世界です」、って唐突に言われたら俺だって固まるし当然の反応っちゃ反応だ。固まった表情もゲームの中ではなかなか拝めなかった表情だ。
ゲームの中の彼女はどちらかと言えば、怒っていたり、嘲笑する表情の方が多かった。悪役令嬢なら当然の表情の差分なんだろうけど……少し新鮮な感じ。
「……ちょっと待ってね」
俺はとりあえず、マリアヌにわかりやすく説明するためにどうするか頭を捻った。
『――道隆様、道隆様』
ん? 女神の声が聞こえてくる。
俺は一度マリアンヌの方を見るも、彼女は固まったままだ。
『大丈夫です、道隆様。今は貴方様にしか私の声は聞こえていません』
『……普通、彼女の前に現れるのが筋では?』
俺は彼女が脳内で話しかけてきているようなので、俺も心の中で皮肉気味に問う。
『彼女の世界の私は教会で信託する時にも声しか届けられなくて、下手に彼女の前に現れるよりはその方が信用してくださるかと……』
『じゃあ、何か声が聞こえる物があればいいってことですか』
道隆は周囲を見て、ゲーム機の近くにあるヘッドフォンが目に入る。
『道隆様、その機械に触れていただけますか?』
『……わかりました』
俺はヘッドフォンに触れると、眩しい光が発し始める。
「うわ、何――」
ヘッドフォンの両耳の部分であるイヤパッド部分に虹色の薔薇の模様が現れる。
それは、女神アルカンシエルをイメージされたものと想像するのは容易にできる。というより彼女が俺の安物のヘッドフォンにそうした、というのは今の流れですぐに理解できた。
「……マリアンヌ、これ頭に付けてくれる?」
「え? そ、それは女神アルカンシエル様の刻印!? ここは異世界なのでしょう!? それがなぜ」
「いいから、ほら」
「……っ」
マリアンヌはヘッドフォンを恐る恐る触れながら、頭にかけた。
『聞こえますか、マリアンヌ嬢』
「アルカンシエル様!? ……ほ、本当に貴方様なのですね?」
『はい、そうです。信託の儀以来ですね』
女神の声は俺にも聞こえるように話している。
おそらく状況理解をさせやすくするためになんだろうと察した。
「どうしてこのような粗末な物から、女神様のお声が!? 神具には見えませんが……?」
マリアンヌは驚きながらも俺の私物に罵倒する。
さっきから無礼な発言多くないか? この悪役令嬢。
令嬢だからって罵倒のレパートリーが豊富じゃなきゃいけないの?
『マリアンヌ嬢、この声は貴方にしか聞こえていません。しかし人様の私物を罵倒するのはよくないですよ。貴方は聖女候補の一人でしょう?』
「あ、も、申し訳ありません。女神様っ」
マリアンヌはしおらしく女神に謝る。
やっぱり女神の言葉なら、彼女の悪役令嬢としての棘の部分は薄まるんだな。
俺は二人のやり取りが丸聞こえなのに気づかれないように適度にあくびをする。
『わかっていただけるなら問題はありませんよ、いい子ですね』
「あ、ありがとうございます。女神様。けれど私はなぜここに? ……なぜあの殿方のベットで眠っていたのですか?」
『その説明は、彼からしてもらえますよ……そうですよね? 道隆様』
「え?」
「……何?」
マリアンヌは俺のことをじーっと見る。
「そ、その……貴方、」
「俺?」
「い、いえ……なんでもありません」
俺は自分に指しながら、言いづらそうにしているマリアンヌに首を傾げると彼女はそっぽを向く。警戒された猫とよく似た反応だな、と個人的に感じる。
「あの、どうしても彼に聞かなくてはいけませんか?」
『大丈夫ですよ、彼は優しい殿方です。安心して彼に質問してくださいね。彼にある程度のことは私からも話しているので』
「しかしっ」
『すみませんが、この世界では私は必要以上干渉できません……わかってくださいますか?』
「……わかりました」
なんだなんだ? もしかして女神様、俺に丸投げする気か?
恐る恐る、マリアンヌは俺を見つめる。
……上目遣いとかの差分をウィリアムに見せてたら、きっと少しは君のこと好きになってたかも、なんて口にしたら大激怒なんだろうな。
「……教えてくださる? その、キドウ様」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます