第4話 マリアンヌとの初めての会話

 女神、アルカンシエルが消えると俺は自分の部屋に戻っていた。

 もちろん、マリアンヌも俺の背に眠っている。

 俺はとりあえず、自分のベットの上に彼女を寝かせた。

 まだ彼女が目覚めていないから、下手に彼女を起こすわけにもいかない。

 俺はちらっと自分の腕の方を見て、一度首にかけてあるペンダントを外した。

 すると、俺の右腕が半透明化しているのがわかる。

 

「……本当、なんだな。これ」


 ペンダントにそっと触れながら続けて自分の頬を抓る。


「…………現実、あの女神さまも本当、ってことか」


 夢みたいな展開で、まさか悪役令嬢に自分の恋は成就しないという現実を叩きつけるためにゲームを攻略させろ、なんて……はっきり言って酷な話だ。


「あれ、ドレスってどう脱がすんだ? ……ドレスの脱がし方知らないなぁ」


 胸元が血濡れのドレスをいつまでも着させているのも駄目だと思い、彼女のドレスを脱がす決心がついたが、とりあえずスマホに検索をかけることにした。

 俺がスマホをいじっていると、ん、……と悩まし気な美声が背後から聞こえてくる。


「……ここ、は?」


 俺は後ろに振り向くと、重たげだった目蓋から開かれたディープミント色の瞳に光が灯る。


「え、起きたの?」

「――――――悪夢を見たと思ったら目覚めた場所がこんなにも狭い部屋なんて、まるで家畜小屋のようですわね」


 額に手を当てながら、ぽつりと無礼発言をする彼女は起き上がった。

 うわぁ、嫌味っぽい。流石、悪役令嬢。言葉の切れが違うな。


「人の部屋、家畜部屋とか言わないでくれない? 追い出してもいいんだよ、無一文さん」

「はぁ? この私が無一文? ロートローゼン家公爵令嬢のこの私に無礼ではなくって!?」


 声優らしい綺麗な声で、彼女は怒号を向けてくる。


「だったら、まずその血塗れのドレスを質屋が買い取ってくれるかどうか試してからにしてくれない?」

「なんですって!? ……ッ」 


 マリアンヌは起き上がると、胸元を抑えた。

 傷はもう治っているはずだけど、急に大声出すし身体動かすしで、傷開いたのかな。彼女は、涙目でこっちを睨む。


「貴方は、何者です?」

「まず、相手に名乗らせるんじゃなく普通は自分から名乗る物でしょ?」

「……その点は謝罪します。けれど私をこんなところに閉じ込めた地獄の番人にしてはだらしない格好のように見受けられますが……いいでしょう」


 マリアンヌはベットから降りて、俺の目の前でスカートの裾を両手でつまんで、そっとお辞儀をする。


「私はロートローゼン伯爵家の長女、マリアンヌ・フォン・ロートローゼンですわ。以後、お見知りおきを」


 胸の傷を縫合してあるとはいえ、病人に鞭を打ったような物だ。

 彼女の素面どころか、正確なんて高飛車のお転婆お嬢様、って印象の方が強いけどところどころのシーンで令嬢らしく賢いところもあるんだよな。


「うん、俺は貴堂道隆、君の国風に言うなら、ミチタカ・キドウになるよ」

「……私の国風? ここは他国なのですか?」


 スカートの裾を持ちながら、彼女は顔を上げる。


「他国どころか、ここは地球ってところの日本って国だよ」

「に、にほん……? なんなのです? それは」

「君にとっての、異世界かな」


 彼女は俺の一言で、カチンと石のように固まった。


「――――――いせ、かい?」

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