第3話 神様の契約

 俺は車から降りて、マリアンヌを背負って自室へと戻る。

 田中は色々と心配されたけど気にしない。俺はマリアンヌを器用に背負いながら、カーテンを開ける。

 流石に暗い部屋の中で冷静に会話しようなんて思えないだろうし。

 神々しい光が俺の部屋から発光していた。


「うわ!! 眩し……!!」


 俺はだんだん光が強くなるのを感じる。

 目を開ければ、そこは真っ白な空間だった。


「なんだ、ここ……?」

「――――ますか、聞こえますか? 貴堂道隆様」


 神々しいお声が聞こえる……聞き覚えのある声だ。

 声豚と評している妹から記憶力おばけとゲーム脳と呼ばれる俺の脳みそが、ビビッ反応している。サイブルのゲームの序盤の時に聞いた声だ。 


「……サイブルの主人公が異世界転移する時に神様と話してた会話シーンの時と同じ? ……俺、ゲームの中に入った?」

「いえ、これは現実ですよ」

「!? アンタは女神様!?」

「はい。私はシャンドフルールの創造神であり花の女神、アルカンシエル……貴方にはお願いしたいことがあってまいりました」


 俺は顎に手を当てて考え込んでいる中、背中に感じる重みが亡くなったのに気づく。そう、マリアンヌを背負っていたはずの手は彼女を支えていないのだ。

 気づかない方がおかしい。


「!! マリアンヌは!?」

「大丈夫ですよ、現実世界での貴方は彼女を背負ったままです」

「よかった……ってそれはそれでどうなの?」


 背負っていたはずのマリアンヌがいないことに焦ったが、彼女の言葉に俺は胸を撫で下ろした。が、運んでる状態固定はちょっといかがだと感じた。

 こういう既存作品たちの展開の流れで、サイブルのゲームのキャラじゃないなんて展開はおそらくあえりえない。いや、絶対にそんなことあるわけない。

 真っ白の翼が背中から生えた女神として申し分ない美しい装いの女性がそこにいる。流れる金髪の髪先にはそれぞれ左から右にかけて虹になるように順番にメッシュが入った髪は、ゲームをプレイしていていいデザインだなぁと感心した。

 確か、彼女は異世界転生する前の神様じゃなく、ゲーム本編に置いて主人公に信託を言う存在だったはず。その彼女が、どうして俺の目の前に……?

 柔らかさのあるスカイブルーの瞳は穏やかに細め、彼女は自己紹介を始めた。


「まさか、俺、異世界に転移とか転生するとかじゃないですよね」

「はい」

「じゃあ俺、これから死ぬんですか?」

「あながち、間違いではありませんね」

「は!? 嘘!? なんで!?」


 穏やかにニッコリと微笑む彼女に俺は疑心を抱く。

 彼女がゲームプレイ中に登場してきた時は漫画によくあるあるあるだねーなんて妹の愛希と笑っていられた時と、今は状況が違うのだ。

 理由を聞こうじゃないか、女神様。


「……まずは、貴方の腕をご覧になれば理解が早まると思います」

「腕……、!!」


 俺は女神の言葉で腕を見ると、服ごと俺の腕の一部が透明になっていた。

 透明人間になる、なんて幼い頃は下心もなく憧れたものだけどこんな形で叶うのは、さすがに勘弁願いたい。


「何これ……!?」

「私は私たちの世界と貴方の世界とは繋がっています。本来死ぬはずだった彼女が生きているのは貴方が生かした、それはおわかりますね?」

「……はい」


 俺はそっと腕に触れて、女神の言葉に頷く。


「つまり、本来死ぬのが正しい彼女の死を無理矢理生かしたというのは、この世界の承認されておりません。いえ、私たちの世界でも認められていません」

「認められていない……? そんなの、二次創作関連の話なら、別におかしくもなんとも」

「いいえ、彼女が私たちの創造神がおわす世界に現れること自体、おかしいことだとは思いませんか?」

「そ、それは……そう、だと思いますけど」

「私がここにこれたのは、花宮唄子……貴方方の言う、主人公の記憶を持っている貴方にどうしても悪役令嬢の彼女を私たちの世界に連れ戻してもらいたいのです」

「で、でもそんなのは貴方がすればいいんじゃ……」

「彼女に最後に激励を送ったのは貴方だけです。そして、彼女の琴線に触れた貴方は今、何もしなければただこのまま消滅してしまうでしょう」


 ――――え?

 どういう、ことだ? 俺が、消える?


「どうしてですか?」

「彼女を生かす選択肢を選んだ貴方には、常に彼女の代わりに死ぬ運命を背負ったのです。その解決方法は彼女に現実を教えることです」

「現実を、教える……? それはまた、どんな」

「この世界風に言うのなら、私たちの物語である七彩のブルームハートの攻略対象たちを彼女に攻略させることです」

「――はぁ!? 俺、もうサイブルの全キャラの攻略ルート知ってんのに!?」


 しかも各ルートも事細かくセリフも全部覚えている。彼女に全部のルートの説明をしてしまえば、簡単にクリアできてしまうのではないか!?


「もちろん、ゲームの内容を彼女に話すのは厳禁ですし彼女にゲーム攻略をさせない限り、世界のルールとして現実世界から貴方は消えることとなります」

「この腕が、その証拠ってことですよね?」

「ご理解いただけましたか?」

「はい、大体は」


 つまり、彼女にゲームをプレイさせてさっさと自分の世界に帰らせれば、俺は現実世界から消えないし、今まで通りゲームや漫画を見ながら過ごす日々に戻れる。

 そういうことだよな。


「お願いします道隆様。貴方が頼りなのです――――どうか、私たちの世界を救うと思って協力してください」

「わかりました、わかりましたよ……面倒事は嫌ですけど、俺、現実から消えたくないですし、やり残したゲームとか、まだ読み切ってない漫画とかあるんで」


 俺は頭を掻きながら、美しい女神アルカンシエル様は嬉しそうに破顔した。


「ありがとうございます、道隆様。では、契約を交わしましょう」

「え? うわ―――――!!」


 女神様がそう言うと、俺の首に銀細工のネックレスがあった。

 しかも、なぜか薔薇チョイス……こ、好みじゃねえっ。


「これは……?」

「それは契約の証です。勝手に捨てないでくださいね」

「……わかりました」

「それでは、お願いいたしますね――――――道隆様」


 彼女はうっとりとする微笑で、ゆっくりと消えていった。

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