第10話 前世の私の公開処刑

前世の妹は私が実の父までを性的にたぶらかしていると街の人に吹聴してまわった。


父の友達のおじさん、現世の彼との恋も私がたぶらかしたことにされた。


歳頃になって掘っ立て小屋でおじさんと愛し合う私がなによりの証拠だと。


私達はいわゆる不倫ではあったものの、本当にただ彼が私をかわいがって愛し合っていただけだった。道徳には反したし彼の奥さんが激昂するのも無理はない。

しかし愛し合う者たちを裁けるものはこの世には居ないことを私は信じていたい。


前世の弟は全面的に妹の味方。前世から霊能力があった。


霊能力でありとあらゆる霊現象を起こし、街の人々を不安に陥れ、呪われた魔女の私のせいで霊現象が起きていると妹と共に周りの人に吹聴してまわった。


それは数年に渡って行なわれた妹と弟の画策だったので、街の噂を消し去ることはもう無理に等しかった。


そしておじさんの奥さん、前世の妹と弟の3人は、絶対に私を殺すという執念にも似た画策のもと、街の魔女裁判、私の公開処刑を取り行なった。


私に同情する街人もいない訳ではなかったが、街中の人達で私を魔女として処刑するには十分な空気が漂っていたし、公開処刑を止める術はもう誰にも無いほど噂は浸透してしまっていた。


大好きだった父も公開処刑に参加していた。


父は冷静だった。

その冷静さが冷酷だとも言えただろうか。


おじさんである現世の彼は公開処刑に抵抗したので、目隠しをされて椅子にロープで縛り付けられていた。


私はただただ大粒の涙を流すだけで、火に焼かれても悲鳴もあげないくらい忍耐強い子だった。


私は父が大好きだっただけ。


おじさんが大好きだっただけ。


なぜこんなひどいことを。


そして何よりも愛するおじさんとの別れが辛すぎた。


無念で無念で涙を流すしか無かった。


自分の言い分を話したくても長年のこと、何から話していいかわからなかった。


おじさんも目隠しの下で泣いていた。


おじさんが渾身の力を振り絞って縛られた椅子からロープを外せた時には、私の表皮はもう丸こげになっていておじさんはあんなに可愛かった私の身体に残る火を消そうとして咄嗟に自分のおしっこをかけた。


生温かいおしっこが顔にかかる感覚。

現世の私はその感覚を覚えていた。


そしておじさんは私の遺体を夏の湖に投げ入れた。せめて火を消したかったのであろうおじさんの行動が愛しい。

ひんやりと気持ちいい水の感触も覚えている。




現世の私は、前世で何も言えなかった無念さの記憶が染み付いていたからか、文章を書くことを独学で練習したりしていた。


物も言えないと自分の身も守れずに殺される。


そしてここで今、私は前世の汚名を返上した。


あの3人にたった今も霊的攻撃で嫌がらせをされている。

この小説を書いている私に驚愕し腹を立てたりしている。


果たして3人は前世の記憶はあったのだろうか。


確かめたところでもう無用の長物だ。


私は前世を思い出し言葉を駆使し汚名を返上した。現世では約半世紀生きている。


彼を殺してしまった前の世もあったけれど奇跡的に罪を清算できて彼と結婚まで出来た。




公開処刑された前世の私は18歳だった。夏の事だった。

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