第9話 二人のやり取り

現世で彼と出会ったばかりの頃、掃除の話をした。


「トイレと玄関は毎日やらな」彼はそういうマメな人。


きれい好きな彼が好き。


もう少し仲良くなった頃、ブルースハープを口笛でコピーした様子の動画を彼に送った。


女子にしては渋い選曲と中途半端な口笛に笑えたみたいで彼と一緒に盛り上がってはしゃいだ。


彼の毎日の朝食や夕食の献立を考えて画像を作って送ると、献立が気に食わないみたいで少し言い合いになった。


どちらも言い分を曲げない。

たかが献立の画像で。


私のお団子鼻をいじってすぐからかう。


彼にからかわれるのが好きだった。


いつも簡単なアイメイクとリップだけで動画を送っていたら化粧しろと言われた。


好きな人に化粧しろと高圧的に言われるのがなんだか女子としてくすぐったく嬉しかった。


彼が喜ぶならと思い、化粧を3日くらい頑張ったけれどいわゆる女子力というものが低い私は細かいメイクが出来ない。


「出来ない!」と苛立って彼に感情をぶつけた。


彼は化粧だけで感情的になって怒っている私に呆れていた。


面白い動画を見つけて送ると、結構笑いのツボが合うのか、彼は楽しそうに笑っていた。


そういう他愛ない彼との毎日が大好きだった。


沢山のメッセージを送っても嫌そうにせず楽しんでくれる。


素朴だけどとても楽しくて生き甲斐があって幸せな日々。


かなり気難しい私は恋人も中々作らず、人付き合いもろくにせずに一人で長年過ごしていた。


自ら一人を選んだとは言え、孤独感に押し潰されそうな日もあった。


あの孤独感を思い返すと、もう一人には戻りたくない、彼とずっと一緒に居たいと強く思った。


彼の話を毎日聞いていると、彼とはすぐ次の交際段階に入れる状態じゃないことがわかった。彼も私への気持ちを伝えてくれるわけじゃない。


毎日タロット占いを見た。

当たるも八卦当たらぬも八卦、とにかく彼の気持ちを知りたい思いで見てみる。


タロット占いでは沢山の宇宙的な話も勉強になった。


若い時から運命なんて信じていた私には割とすんなりと入ってくる話。


全て信じるわけではないが、ピンと来たものだけを抽出し独学で私の気付きのようなものは見る見る覚醒していった。


するとある日点と点が繋がって前世を思い出す。物語はどんどん紡がれていった。


初めは少ししか思い出せなかった前世の話も、直感が働いて日に日に骨に肉を付けて真実味を帯びてゆく。


真実かどうかは自分の直感が感じるだけ。


それが真実だと自分の勘が働いたところで、他人から見れば当てずっぽうでしかないのだ。

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