第5話 お前にやるよ

加害を加えるものにも家族が居たり、私的感情がある。


結論から言うと前世と現世の奥さんである彼女は彼女なりに確かに彼を愛していた。そして彼女は相当なやり手だ、勤勉でもある。


彼を得るまでに虎視眈々と策を練っていたようだ。彼は素敵だったから。


彼と彼女は結婚に至った。

時の流れと共にその愛は破綻したようだが、彼が確かに彼女を愛していた時期の痕跡を見て私は妬いた。


彼はその痕跡に嫉妬する私を見て「お前にやるよ」と唐突に言ったことがある。


愛していた彼女への気持ちを今の私にくれるということ。


彼女に悪いのにそんなこと言ってくれてとても嬉しかった。


彼のこと愛しくなるのはそういう部分。


私が彼女を辛辣に中傷しても彼女に霊的攻撃で暴力を振るっても彼はニコニコと笑う。


神経質で落ち込みやすい私の気持ちを和らげる術を持っている。


彼は時に私が覚えていられないほどの繊細さを持った安らぎをくれる。

私の無意識領域に優しくしてくれているような不思議な感覚。


彼は、いつの間にか私の人生に現れた。


墜落した毎日を生きる私を笑い飛ばしてくれた。

私が描いた小さな絵を茶化しながらも誉めるかのように笑ってくれた。

好きな音楽を聴かせたり、好きな猫の動画を見せたりしても楽しそうにしてくれる。

思い余ってずっとメッセージを送り続けても笑って許してくれた。


そして彼は私を毎日のように抱くようになった。


私が子供返りするようなキスの仕方が大好きだったから彼を求めてしまう。


私は子供のような女。


前世の父は今の彼に私のことを「返せよ」なんて言っていたし、初めて見た時に稲妻に撃たれたような感覚になったのは父の方だった。


今の彼にはそういう衝撃的な感覚はなかったし、当時愛していた前世の父が最愛の運命の人だろうと思っていた。


思春期の頃からなんとなく捜していた私の運命の人。


ある日とある文献を読んでピンときた。


最愛の運命の人は今の彼で、魂の勉強と清算のために出会ったのが前世の父であるいうことに気付いたのだ。


気付いたとは自分の中での確信であるが決して証拠などない。




これを書いている今日は晴天。

やけに低空を飛ぶ大きな鳥を見た。


道路に映る大きな影に神様の類の存在を感じるけどそれはきっと妄想かもしれないし明確な真相は死ぬまでわからない。

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