第17話 星空照月


 〈アストロスの街〉に、到着してからは……


 まず、プレイヤーやモンスター、フィールドで収集して得た不要なアイテムの売却を行った。……俺のイベントリ重量制限ギリギリ一杯分と、リビオン四体に担いで持ってきてもらった分だ。


 ガラクタばかりにしてはー……十分な稼ぎになったと思う。


 そして、得た金で必要な物――俺の上下の衣服、武器、アイテムなどの装備一式、それに、薬研やげんや乳鉢と乳棒、水差しに小壺とガラス瓶を幾つか、小窯と小型ナイフに丸薬製形器が一纏めになった初級錬金術セットを購入した。


 俺の必要な物に関しては、これで整っただろう。


 とは言え、防具に関しては重量制限があるから、重い革装備は買えなかった。ただの衣服を二セット替えの分を合わせて買っただけだ。しかし、武器に関しては、これ以上ないと言えるまでの理想の武器を手に入れられた。


 非力な俺でも使える――スリングだ。


 布と糸ではなく、革で拵えられている丈夫な物が見つかった。これがあれば、俺だって戦闘に参加出来るはずだ。試してみた感触は悪くなかった。現時点から最終まで使えるだろうと思った逸品だ。もはや、俺の最終装備と言ってもいいレベルだ。


 もし、筋力値が上がらなければ、このまま使い続けることになるだろう。


 それまで弓のようにゴム紐を引っ張って使うタイプのは我慢だ。今の俺じゃあ振り回して使う投石紐の方のスリングが限界だからだ。……でも、手首に巻き付けて持ち運べるし、アクセみたいでカッコいいから気にしてない。


 戦闘時に、ハラリ……と、させる感じもカッコいいから、別にいいんだ。


 ……後は、従者スルトに頼まれてた、切って焼いて煮炊きを最低限出来る初級料理道具一式と、塩と乾燥ハーブと木の実が少量入った調味料セットと、リビオンの勧めで買うことにした、砥石と板革や布やらが入った初級研磨セットを購入しておいた。


 それと、どーしても欲しかった農具用の鎌を二本だけ買った。


 完全にロマン枠ではあるが、ヌトを羽織ったスルトに持たせたかったからだ。死神みたいでカッコ良いという安直な願望に負けたというか、忠実に従ったというか、そうした方がいいという俺の直感を信じることにしたためだ。


 そのせいで、サイフは……すっからかんになったけどな。


 元々、買うつもりでいた従魔証の追加分は、次の機会に回すことにした。全員分はとても買えないし、持っていてもそんなに効力がないというか限定的だし、一グループに一つあれば事足りると言えば足りるから……と、いう理由で先送りにした。


 あの数量の軍勢で街に入ることもないだろうしな。


 ともあれ、売却と購入だけで三時間以上の時間を費やしてしまった。そのほとんどは走り回っているだけだったが、かなり時間を掛けたことには変わりない。街での予定を済ませた頃には、すでに深夜の時刻を過ぎてしまっていた。


 ……の、だが、しかし、これで、ようやく、神殿に辿り着いた。


 リビオンに担いでもらって、神殿に続く長い階段を上り切った俺は、礼を言いつつ降ろしてもらうや否や、一目散に神殿の奥へと駆け込んだ。……そして、正座の形で、ほぼ、滑り込むと、星が見える空へと向かって祈りを捧げた。


『……むーん!!』


 すると、淡い光が身体を包み込んだ。


 そのまま祈りの態勢を取り続けていれば、アナウンスの――ピコーンという音が耳に聞こえ、目の前にメニューで見るようなウィンドウが現れた。


 そのウィンドウを恐る恐る見ると――……


名前:カイナ 種族:ハーフリング

特性(職業)タイプ&スキルセット:テイマー

レベル(水準):❶②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑩

クラス(位階):Ⅲ(駆け出し)


HP❙❙❙❙❙❙     STM❙❙❙❙❙❙❙     MP❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙

POW=STR(筋力)❙❙     SEN=DEX(器用)❙❙❙

DEF=VIT (生命)❙❙❙     MAG=INT(知能)❙❙❙❙

SPD=AGI (敏捷)❙❙     MEN=MID(精神)❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙❙


 ……――俺のステータスが映っていた。


『えぇっ?! ……ランっ、んぐ…………』


 上から順に眺めていたところ、一つの項目に目が留まった。


 そして、そのクラスがⅢという表現がなされていることに驚き、目を疑ってしまった。そのせいでランクを言いかけたが、周辺プレイヤーにバレてはいないだろう。……咄嗟に口を噤むことが出来て良かった。


(……ぇえーと、意外と、結構、成長してるんだな)


 もう既に駆け出しランクまでになっている。Ⅰが初心者で、Ⅱが見習い、そして、Ⅲが駆け出し、Ⅳが一般と続くのだが、現時点のプレイヤーの平均ランクだろうところに並ぶまで、知らず知らずのうちに成長していたようだ。


(……ま、まぁ、ギリギリか)


 レベルは、①の経験値が満たされ❶と染まっている。⑩が満たされるとランクアップになるシステムらしいのだが、……多分、あの古城でのプレイヤーとの戦闘がここまで成長を押し上げた理由だろうな。


(に、しても、驚いたわ。……でも、ギリ追いついた位か?)


 Ⅲにランクアップする目安としては、三日と言われている。初日でレッサーモンスターを狩ってⅡに上げ、二日目以降からノーマルを狩ってⅢに上げれば、三日でランクⅢになれるらしいから、まだまだ俺はボトム層を脱してはいない。


(早いやつだと、もうそろそろ一般のⅣに行ってておかしくないしな)


 むしろ、そこからがスタートラインだ。まだまだNPCにも勝てぬ平均以下だ。Ⅳからレベルアップがキツくなり、Ⅴに上がれば更に伸びにくくなる。現在の予想では、大会参加基準はⅥかⅦと言われているが、……それもどうだろうか。


(中位ランクは、あり得る。……でも、流石に上位に行くやつはいない、はず)


 いや、まだ分からんぞ。油断はしないことだ。高く見積もっておいても損はしない。目標のランク設定は、Ⅹ……は、行き過ぎ、だけど、Ⅷくらいなら、そこまで持って行きそうなプレイヤーがいてもおかしくないな。


(ふむ……、ま、まぁ、……頑張ろう)


 それにしてもピーキーなステータスだな。自分でそうしたし、自分で言うのもなんだけど、ホント尖り切っている。昨今、特化型は弱いという風潮のゲームが多いけど、このゲームでもやっぱそうだよな。……特定の職業じゃなきゃ絶対無理だ。


(強みと弱点が如実に現れてるよなぁ)


 確か、ヒューマンの戦士系タイプのが……


HP❙❙❙❙❙❙❙     STM❙❙❙❙❙❙     MP❙❙❙

POW=STR(筋力)❙❙❙❙❙     SEN=DEX(器用)❙❙❙

DEF=VIT (生命)❙❙❙❙     MAG=INT(知能)❙❙

SPD=AGI (敏捷)❙❙❙     MEN=MID(精神)❙❙


 ……とか、こんなだったような感じだったはず。


 型がそれぞれあるにしても、特化型や亜種型にしてない限りは、バランス良いステータスになっている。魔法系職業にしても、似たようなもんで、初期成長倍率をイジりまくってない限りは、偏ることもないはずだ。


(熟練度によるステータスボーナスもあるみたいだけどさ……)


 だから、レベルもランクも上がりにくいとされているテイマーでも、そもそも戦力に加えない計算で構成すれば、格上だろうと眷属がなんとかしてくれるし、なんとかなるように思う。……下手に魔法とか、剣や槍術なんか取らなければさ。


(うん。それでいい。間違っていない。……あ、そうだスキルも見ておこう)


アクティブスキル:【テイム】【チャージ】

パッシブスキル:【リンクネットワーク】


(…………ん? なんだこれ?)


 俺が知っているスキルと違うぞ。仕入れた情報では、多少の違いあれど、そこまでテイマー系スキルに差異は無かったはずなのに。……どういうことだコレ。


(それに圧倒的にスキル、……少なくない?)


 アクティブスキルの【テイム】は初めから持ってるのは当然だけど、ⅡやⅢランクになってた他のテイマーは能力UP系のバフを幾つかと、少しの間だけ視界を借りれたり、魔法を借りたりするスキルなかったっけ?


(……その代わりが【チャージ】か? とにかく、説明を見てみよう)


 【チャージ】:任意発動型スキル。指定した眷属に自らのマナを送ることが可能。対象の眷属は戦闘時において基礎能力の微上昇と微回復効果を得られる。また非戦闘時においては眷属の糧に変換される。


(はいぃ? ……なにこのスキルヤッベェエエエエエエ!!)


 めちゃくちゃいいスキル手に入れてたわ。……ていうか、俺がやってたことの延長線上にあるスキルだし、俺が望んでたまんまのスキルじゃん。戦闘中とかもそうだし、傷ついた眷属にマナ供給してたからか?


(え、じゃあ、これは? 初期パッシブスキルの【リンク】が変化したっぽい【リンクネットワーク】ってのは……確認だ確認!!)


 【リンクネットワーク】:常時発動型スキル。テイムした眷属との繋がりを強化、また眷属間においてリンクを形成する。主従に加え眷属間でのリンクが形成されることにより眷属間での意思の共有化、マナや一部スキル、経験値を伝送可能とする。


(……ハイ? え、ハイ? ン、クソヤベェのは確かだけど、ナニコレ?)


 もしかして、テイマーが不遇過ぎると不評だったから、俺の知らない間にアプデか修正でも来たのか? ……いや、そんな情報はなかったはずだ。犬の十戒をもじって、テイマーの十戒なる、テイマーを馬鹿にするもんがまだあるくらいだしな。


(てか、始まったわ。……間違いなく、これはヤベェスキルだ)


 もはや、テイマーが不遇どうたらの文言を見て聞いても、どうでもいいと思えるわ。こんなクソ強スキルもらえるんだったら、この先の俺のテイマー人生も見えて来たって思えるもんな。……最高だぁあああああっ!!


(ふふふ……これからが楽しみだ。ステ確認しに来て良かった)


 レベルもそうだが、ランクも勝手に上がる。都度、確認するのがベターだとされている理由がコレだ。知らないままだと、スキル覚えてても使えないからな。それに今回は授かることがなかったが、稀に新スキルを授かることもあるらしいし。


(……あ、そうだ。一応、これも確認しておくか)


 ストーリー進行度:Ⅰ 文明進行度:Ⅰ


 ふむ。ワールド全体の進行度は変わりないな。βテスト時には、ストーリーや文明を進めるためのイベント等々は含まれていなかったらしいし、流石に数日ではどちらも進行する訳もないか。……速すぎても自由度が高すぎても良くないし。


 現実世界の知識が持ち込めるというのは、難儀なものだからなぁ。


 昔あった、自由度が売りのVRMMOが制限を掛けなかったせいで、なれる系異世界転生小説も真っ青の文明開化して、ワールドリセットするハメになってプレイヤーの反感を買って、すぐにサ終してたしな。


 ある程度の縛りがなければ、世界観が無茶苦茶になるもんな。


 確か、オープン一か月後には車が走るのは当たり前、その後は銃器やドローンにミサイルが飛び交う世紀末ファンタジー化してしまったんだっけか。その点で【Evernal = Online】は、保護策が講じられているから安心だ。


 簡単には現実世界の便利道具を生産できなくなってるらしいしさ。


 馬車を改造するにしても、板バネやスプリングなどの現代知識を用いたら、摩訶不思議な力によって完成することはないようになってるみたいだ。……逆に魔法を利用した技術の方が、進みが良いくらいだと聞いたことがある。


 と、まぁ、なんにせよ。知識無双される心配は今のところはないみたいだ。


 ストーリー進行度は、主にエピソードイベントを進めることで増し、文明進行度は、主にイベントやクエストを進めることで増すようだが、この辺りは他のプレイヤーに任せておいてもいいと思える。


 その間、俺はテイマーとしての力を付けていけばいいな。


(うんうん。……あとは、明日からワールドイベントが発生するらしいけど……)


 ……そういや、別に、街のNPCが、ザワついてる感じでもなかったな。


 インフォメーションによるところでは――


 全フィールドにおけるモンスターの出現率UP。

 2ndエリアより、モンスターの襲撃イベントが一定期間発生。


 ――と、いう情報が記載されてたはずだ。


 ワールドイベントやらが発生する毎に、NPCにも神託っていうもので伝わるようにシステムが組まれているらしいけど、今思えば街の様子は平時となんら変わりない雰囲気だったような気がするな。


 ってことは、大丈夫ってことなんだろうなぁ。


 まぁ、ここは1stエリアで、周辺も1stエリアに囲まれてる島で、モンスターが増えようが足りていない現状だし、それに高々レッサーが増える程度のことだから、どちらかと言えば嬉しいことで、慌てることもないのかも知れないけどさ。


 俺にして見ても、テイムしやすくなるから良いは良いんだけどな。


 そりゃあ、襲撃イベントに参加したい気持ちはあるけど、2ndエリアに接していないのだからモンスターが迫ることなんてないんだし、それに眷属を連れて島を出られる状況でもないから、ここは甘んじるしかないし。


(……まぁ、俺は俺で、じっくり頑張ればいいや)


 よぉーし、頑張るぞー! じゃあ、まずは向こうの眷属と合流だー!


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