014
「ずっと思ってたんだけど、君は一番上じゃないよね?
「――かん、り表がある」
「出して。それと、もう少し喋って貰える?」
青年の汚れた服を掴んで上下に揺らすと、穴の開いた右肩と左ももから血が滲む。床へ突っ伏した彼の足先を撃てば、痛みを叫ぶ。
彼らが扱う自動拳銃は、密売品。依頼人によると、市場に出回りすぎたというより、わざわざ此処に卸した人間が居るそうだ。
血気盛んなアンモラル廃特区に武器を与えれば、争いが加速する事は避けられない。思わぬ形で実力社会が崩壊し、不道徳が街に流れ込む危険は取り除く必要がある。
『外の人間の仕業だったよ。
「警察の人間じゃないな?」
依頼人から課された任の対象者は、彼だろう。青年の上に座ったグレイへ声を掛け、自動銃を構える彼は異様な脂汗を額に滲ませていた。
「その銃、仕入れた方ですか? 密売品回収の指示が出てるんだけど」
「わ、わかった! 言う事を聞く、絶対バレねぇ話だって言われたから、請けただけなんだ。そいつには何も話してないから愚図ったかもしれねぇが、俺はあんたに抵抗する気はねぇから、その」
怯える彼は、何かを察しているのだろう。取引相手から情報を得た可能性が高い。
後に続く言葉は、最期の台詞。そう判断したグレイは、銃の全体数や管理表、相手方との連絡方法などを聞き出した。
「ここに全て?」
「そうだ。数と、名前と、
「あぁ、助かります。……声、震えてますね。僕の事、何だと思ってます?」
「……俺らは警察も、雨隠しもどうでもいい。警察は俺らの事は見ねぇし、雨隠しも此処よりマシって話だ。『取引を知った警官は殺して構わない。だが、RAINの調整役にバレたら抵抗は無駄』ってな。俺も命は惜しいんだよ」
――調整役ね、間違ってはいない。無駄の意味は、履き違えているが。
恐れを知る人間は、立ち向かう事を辞めるのだろうか。強きは正義。身体から血を流す青年を庇いもせず、己の命を優先する彼は、此処で生きる事が自己責任だと体現しているようだった。
深く組織に踏み込んでいない事を確認したグレイは、黙って彼へと銃を向ける。もう、彼に用が無いのだ。
「て、抵抗してないだろ」
「情報提供ありがとう」
グレイが仮面も付けず此処に居る理由は、ひとつしかない。
「壊滅しといて、って言われてるんで。全員、殺しますね」
その言葉より先に、重く設定した弾が彼へ届いた。
《ねぇ。彼、上手く使えたかい?》
管理表を持ったグレイが任務を行う最中で、依頼人の声が耳に届く。彼にグレイへの配慮なんて物は無いに等しい。
「誰の事です?」
《もうひとりのご主人様》
――おそらく、ルークの事か。
依頼人が最初から見ていたのなら、ルークと二人で行くようにという指示も聞いていたのだろう。どの場面を彼が瞳を通して見ているか、グレイにはわからない。嘘を吐く事も出来なければ、嘘を吐く必要も無かった。
「使う事も無いかと」
《二人で協力しなかったのか? 道具を上手く扱えれば、出来る事が増えるよ?》
「特に必要無いです。自分でどうにかしますし、
誰かを頼るより、自分自身で対処した方が速かった。『自分がルークを使う事は無い』と、グレイは本当に思っている。
《そっか、お前は
何人もの人間を壊している場面を、きっと今も彼は見ている。
自動拳銃や手動拳銃、それ以外にもグレイは予備を持つ。衣服に仕込む武器の数々は、それすらも信じていないから。
人間も、武器もすぐに壊れてしまう。グレイは、それを知っている。
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